韓国主催第9回東アジア金融被害者交流集会

2018年10月18日から10月20日まで、韓国主催で第9回東アジア金融被害者交流集会が行われます。過剰債務や、金融サービサーの問題は、日本だけではなく、韓国や米国、他の国でも重要な問題と考え、連帯を求めるために、下記、日本からの報告書として提出いたしました。 

日本における金融サービサーの誕生とその後の変質

2018.10.18

                           銀行の貸し手責任を問う会事務局長   

                          椎名 麻紗枝(弁護士)

1.日本における金融サービサーの誕生

債権回収会社は、1998年に「債権管理回収業に関する特別措置法」(通称金融サービサー法)により誕生した。

バブル崩壊後、日本経済は、長期の不況が続き、金融機関の破綻も相次いだ。しかし、一方で、金融危機が大きなビジネスチャンスになる企業もある。その筆頭は、外資系「ハゲタカファンド」であった。

当時、アメリカの投資ファンドや金融機関は、約30兆円とも言われていた世界最大規模の日本の巨大不良債権マーケットへの参入を狙い、日本政府に不良債権を市場に放出することを強く求めていた。

日米首脳会議、あるいは次官級会議でも、常に不良債権処理が議題にのぼり、日本政府もアメリカ政府に対して、不良債権の迅速な処理を約束した。しかし、これは表向きで、内心は、消極的であった。金融機関はもちろん、監督官庁も、不良債権の実態が明らかになれば、自らの責任が追及されるのは不可避であると考えたからである。

日本には、不良債権処理の制度としては、1993年に都市銀行など162の民間金融機関が出資して設立した共同債権買取機構があった。しかし、同機構が買い取った担保不動産は、5年以内に売却できなかったときは金融機関が買い戻すというシステムになっていたため、ほとんどが市場に出回ることはなかった。

アメリカは、不良債権が市場に放出されないことにいらだち、具体的な要求を突きつけるようになった。それを受けて議員立法により成立したのが、「債権管理回収業に関する特別措置法」(金融サービサー法)である。

この法案提出の中心となったのは、自民党の「土地・債権流動化促進特別調査会」(後に「金融再生トータルプラン推進特別調査会」に改称)であるが、同調査会は、アメリカで、不良債権問題の処理策のひとつとして行われていた金融サービサー制度を日本に導入し、日本の不良債権処理の迅速化に役立てるというものであったが、本当の狙いは、「不良債権を市場に放出させること」にあった。

 

2.金融サービサーの高利潤性

言うまでもなく、この不良債権市場に真っ先に参入したのは、外資系投資ファンドである。外資系ファンドの債権回収の手口は、従来の不良債権回収の手法を超えるものであった。

アメリカで不良債権処理のビジネスモデルを確立した外資系ファンドにとっては、日本の不良債権を市場に放出させてしまえば、あとは彼らの独擅場である。彼らは、第一に不良債権を買い取って企業乗っ取りに専念した。M&Aを仕掛けるにしても、株式の取得よりも、不良債権の買取の方がはるかにコストが安くすむ。バブル期に金融機関からそそのかされて銀行から巨額な借金をして設備投資をして、経営危機に陥っている旅館、ホテル、ゴルフ場などが外資系ファンドから狙われた。外資系ファンドは、あらゆる企業の不良債権を安値で買い取り、巧みにこれらの企業の債務整理をした上転売して、巨額な利益を得た。その利益の移転先はケイマン諸島を中心としたタックスヘイブンであった。

外資系企業は、日本の不良債権市場を「宝の山」と呼んでいた。これを見た日本の信販会社、消費者金融などさまざまな業種の会社が、不良債権ビジネスの高利潤性に注目して、続々と債権回収業務に参入していく。同法施行後、法務大臣の許可を受けた債権回収会社は、当初、27社、取り扱い件数も約15万件、取り扱い債権額は、7兆円だったが、8年後には、100社、累計取り扱い件数も5627万件、累計取り扱い債権額も223兆円に増大した。

そして、現在は、累計取り扱い件数1億5899件、累計取り扱い債権額410、9兆円、累積回収額48兆1979億円にのぼり、巨大市場に成長した。

 

3.債権回収会社の出資母体

債権回収会社は、その出資母体別に区分けすると、「外資系」「銀行系」「ノンバンク(信販、貸金系)」「独立系」さらに「整理回収機構」の5に分けられる。整理回収機構は、預金保険機構が全株出資している国策債権回収会社である。

これらの債権回収会社の債権回収の手口には、それぞれ特徴がある。外資系は、前述したように、大口不良債権を買い取ってM&Aを仕掛けることであり、消費者金融は、小口債権の取立である。一方、整理回収機構は、国策債権回収会社として、債権回収会社とは一線を画しているようにも見えるが、実際には、迅速な不良債処理を名目に、民事執行法の改悪や破産法の運用など不良債権回収をリードしてきたものであり、整理回収機構抜きに、日本の不良債権回収問題は語れない。整理回収機構が債権回収でどれだけ利益をあげていたかが、2005年に、衆議院予算委員会で明かになった。整理回収機構は、無担保債権を一律1000円で6342件買い取り、112億円回収しているのである。わずか、600万円の元手で、112億円もの収益を上げたのである。尋常な手法で回収できる金額ではない。このように、高額の債権回収をはかる整理回収機構の手法は、他の民間債権回収会社にとってのガイドラインとなっている。

 

4.債権回収のフロントランナーとしての整理回収機構

整理回収機構は、株式会社ではあるが、全株預金保険機構が出資している公営企業である。また整理回収機構は、「銀行」と位置づけられているが、「預金」「貸出」も行わず、もっぱら不良債権回収が業務の中核である。整理回収機構は、回収指針として、「契約の拘束性の追求」「人間の尊厳の確保」「企業再生の追求」をうたっている。整理回収機構は、債権回収会社のモデルとなることが期待されているものである。

しかし、実際には、整理回収機構が行っているのは、債務者、連帯保証人に対する情け容赦のない回収である。債務者や連帯保証人に資力がなくても、関係企業や親族に資産があるばあいには、「法人格否認」や「詐害行為」を理由にして、訴訟を提起する。裁判所は、整理回収機構の言い分は、ほとんど例外なく鵜呑みにする。裁判所が、整理回収機構の言い分を鵜呑みにする背景には、裁判官が、整理回収機の公益性を高いと信じていることに加え、整理回収機構の上部組織である預金保険機構の役員や職員には、法務省や裁判所からの出向者が多数いることもある。

私は、私の関わった整理回収機構が、老舗旅館に「企業再生」を名目に破産申立をした事件で、整理回収機構との具体的な癒着関係を目の当たりにした。

整理回収機構が老舗旅館に行った債権者破産申立による企業再生という、それまで前例がなかった。整理回収機構は、この事件を突破口にして、全国に、企業再生を名目にした債権者破産申立をして、莫大な債権回収をはかる予定であった。破産手続より事業譲渡したほうが、回収利益は比較にならない。外資系投資ファンドを真似たものである。

それには、この事件が最適であった。当該地裁の所長が、新破産法の法案審議の際に、最高裁判所長官代理として国会答弁をしており、ミスター破産法といわれていた。彼は、破産実務をリードする裁判官としての自負のもとに、破産手続におけるリーディングケースづくりに意欲的だった。当該所長自身も、「炎天下に生魚を裂く」ように迅速にやらないと企業は腐ってしまうという考えのもとに、迅速に当該所長は事業譲渡をすすめるため、所長自ら、破産事件の審理に立ち会い、債務者の尋問を行った。つまり、4人の裁判官で審理をしたのだ。

この時点では、私は、債務者の代理人ではなかったが、破産開始決定の後に、代理人となって、上記の事実が判明した。地裁は、所長が審理に立ち会うことを認めてしまったことから、当方からの、所長は、どういう立場で立ち会ったのかという質問に対しては、「書記官補助」という意味不明に終始していた。その後、マスコミの取材もあり、当該弁護士会も、臨時総会を開催し、所長に対する懲戒処分をするよう最高裁に申し入れをすることが決議されるにいたり、最高裁も同所長に対し口頭の戒告を行った。しかし、それでもなお、裁判所は、この旅館の事業譲渡先として、整理回収機構の社長の顧問先企業を許可している。

なお、債務者を恐れさせているのは、整理回収機構の、破産法違反、執行妨害などを理由とした刑事事件の告発である。整理回収機構が借り手に対して刑事告発した事件227件(平成11年4月~平成30年3月。それ以前の住宅金融債権管理機構、整理回収銀行の刑事告発を合わせると318件)のうち約99パーセントが、起訴され、有罪に持ち込まれている。

しかも、否認していると、長期間逮捕勾留されているケースが多い。それにより、海外へ移動された資産の大半も、取り戻しに成功している。

 

5.債権回収会社の変質

2008年頃から、銀行の不良債権処理が一段落し、取り扱い不良債権が減少する中で、現在は、債権回収会社は、86社に減少している。日本の不良債権市場を「宝の山」と呼んでいた外資系債権回収会社は、ほとんど大口不良債権は出尽くしてしまったと考え、債権回収業務から撤退している。

一方、消費者金融系の債権回収会社は、貸金業では、利息制限法により、投下資本の回収に上限規制があり、かつ過払い金の返還問題もあるのに対し、債権回収業には、投下資本の上限規制がない。そこで、高利潤性のある債権回収業務に活路を見いだそうとしている。そのために、対象債権を銀行の不良債権だけではなく、未納税金、未払いの水道、電気、ガス料金、未返還奨学金などの債権にも拡大するため、これまで「貸金債権」とあったのを「金銭債権」とするなど金融サービサー法の改正に向けて全力を傾注している。今年の金融サービサー協会の本年の賀詞交換会には、与野党の国会議員が多数参加している。これら参加している議員の中には、利息制限法の改悪に賛同している議員の顔も多く見られ、このことからも、現在は、金融サービサー協会は、消費者金融系の債権回収会社が主導し、与野党への国会議員への働きかけを強めていると思われる。

「銀行の貸し手責任を問う会」は、対象債権の拡大に反対し、なによりも金融サービサー地獄の解消のために、まずは、債権回収会社に対して、投下資本の回収に上限規制を設けること、また売掛金、給与などの債権についての差押を禁止することなどの改正を要求している。そして、マスコミはじめ、法務省、金融庁、与党、野党の国会議員に、実例をもとにした金融サービサー地獄の実態を伝える活動を展開した。それも一因となって、法案は、前国会に上程されなかったが、しかし、金融サービサー協会は、法案の実現を悲願としているので、これで諦めたわけではない。次期国会が正念場となると考えて、多くの人々に法案の危険性を訴え、反対運動を広げなければならない。

 

6.結語、

私は、1996年に「銀行の貸し手責任を問う会」が発足して以来、同会の事務局長をしているが、この間、いかに債務者の権利がないがしろにされたかを痛感し、「債務者の権利」の確立を求めてきた。「消費者の権利」は、さまざまな積み重ねによって、確立されてきているが、消費者概念から除外される「銀行被害者」、「中小企業の経営」にとって、債務者の権利を確立する必要性は、非常に大きいと考える。とりわけ、金融資本は、グローバルであり、国際的にも連携する必要性を痛感する。

2009年に、サンフランシスコで、アメリカのサブプライムの被害者の救済活動をしている弁護士に会って、サブプライム被害の実態を聞いてきましたが、そのときに、世界的規模で、被害者およびこれを支援する人たちが手をつないで、債務者の権利を主張し、運動を広げる必要性をさらにつよく感じました。

ぜひ、本日の集会に参加された皆様にも国際的な「債務者の権利学会」の設立を視野にいれた討議をしていただくことを希望するものである。

                                                                                                                                                          以上

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