『I・B企業特報』2012年7月19日号

■<地域企業の繁栄をサポートする経営情報誌>『I・B企業特報』2012年7月19日号NO.1753

特集・債権回収最前線「銀行の貸し手責任を問う会」椎名麻紗枝弁護士に聞く

銀行が抱える不良債権は、裏を返せば、銀行からの過剰融資が原因の1つだ。銀行債務者の保護のための法律をつくることを目的に活動している「銀行の貸し手責任を問う会」の事務局長である椎名麻紗枝弁護士に、話を聞いた。

――債権回収会社が債務者の資産売却を「詐害行為だ」という事例が起きています。

椎名

債務者の中小企業が、生き残りのために金融機関の了解を得て、正当な対価を得て別会社などへ資産を売却したことを詐害行為と訴えられるケースは、最近になっていくつも起きています。金融サービサーが“ 詐害行為"と難癖つけるのは、資産を戻させて高額な債権回収を図ろうとするわけですが、金融サービサーはできればそれだけではなく、優良企業となった別会社を乗っ取ろうという魂胆のもとに、詐害行為として訴えるケースも多いのです。

まず、不良債権ビジネスというのは2つあります。1つは、もちろん債権回収です。もう1つが、〝乗っ取りビジネス〟なのです。とくに外資系、銀行系と言われるサービサーが狙っています。

“乗っ取りビジネス〟というのは、「企業再生」を口実にした売却益が目的です。サービサーは大口債権者ですから、「決算書を出せ」と言う。経営 が悪いなら、社長や幹部を送り込むなど経営・人事を押さえる、あるいは法的手段をとり、会社更正・民事再生する、と。そして、企業価値が高まったときに企業を高く売るのです。

株式買い占めによる〝企業乗っ取り"には、多額の資金が必要になります。優良企業であっても上場していない場合、株の取得そのものが困難です。しかし、サービサーは、銀行から買い取った不良債権ですから、極めて安い元手で、巨額の売却益を出しています。

債務者の企業がグループ再編をして別会社に資産を移していたような場合では、債務者自体は〝抜け殼〟状態の企業であっても、〝優良企業〟である別会社を“乗っ取り"の目標にして詐害行為として訴えるケースも考えられます。

――債権回収の問題に対し、どのような対策が必要ですか。

椎名

債権回収ルールの確立が必要です。サービサーが巨額の利益をあげるためのターゲットとして、〝乗っ取りビジネス〟を指摘しましたが、債権回収としてのターゲットは、連帯保証人です。連帯保証人の自宅を差し押さえるなど、生活を脅かす過酷な取り立てが問題になっています。連帯保証人に対する取り立てを規制すべきです。

今、サービサーは、「公的な性格の強い債権」として、未納年金や医療費、 税金、給食費、奨学金などの回収業務に拡大を狙っています。もともと債権回収は、反社会的勢力が入り込まないように弁護士のみに認められた業務でした(弁護士法弟72条、同73条)。バブル崩壊後、大手金融機関の相次ぐ破綻を受けて、不良債権処理を急ぐために、「債権管理回収業に関する特別措置法」(いわゆる「金融サービサー法」。1998年公布、99年施行)をつくって、弁護士法の特例として債権回収会社(法務大臣による許可制)が業として特定金銭債権の管理および回収を行なうことができるように したわけです。そこでは、銀行など金融機関の有する債権に限定されていました。サービサー業務の制限が取り払われていけば、市民生活の隅々に 被害が拡大すると懸念しています。

債権回収会社は、たとえば、銀行から500万円で買った1債円の債権を5000万円回収すれば、回収コストを別にして、10倍の暴利をあげられます。実際に、整理回収機構(RCC)は、無担保債権を一律1,000円で約6,000件買って、112債円回収(04年9月末まで)しました。600万円の投下資本で、112 債円の利益をあげたと言えます。暴利行為は、許すべきではありません。

買取価格を開示させ、債権回収を「買い取り価格の何倍まで」と、回収の上限を定めるべきだと思います。

債務者は取り立てられる対象ではなく、本来、「当事者対等の原則」ですが、“銀行有利・借り手不利"となっています。銀行等と対等の立場に是正することが求められています。

――金融円滑化法は、来年3月末が期限切れです。どのような影響が起きることが予想されますか。

椎名

中小企業の利用者は、約30万社と言われています。そのため、大変なことになると思っています。リスケ(返済条件変更)をしてもらっていますので、期限切れになれば、ただちに約定返済を迫られるか、期限の利益喪失に陥る可能性があります。続々と倒産すると予想できます。

金融庁は「金融機関にコンサルタント業務をさせている」「業種を転換すればいい」という考えのようですが、その程度の対策で業績が好転するなら、とっくに好転しているはずです。金融庁は、本音では「中小企業はつぶれてもいい」と思っているのではないでしょうか。まずは、問題の先送りの面はありますが、円滑化法の再延長が必要です。

――では、問題そのものの解決には、どうすればいいのでしょうか。

椎名

過剰債務を抜本的に解消する仕組みをつくって、身の丈の債務に圧縮することです。過剰債務は、潜在的な不良債権です。銀行は、最終的には不良債権を安値で売って損切りします。サービサーが巨額の利益をあげるのではなく、債務者側に安く債権を買ってもらうなど、債務者の救済につなげて、債務者の事業再建、生活再建を図る方が、日本経済にとってプラスです。

米国が08年につくったサブプライムローン債務者の救済法を、1つのモデルに考えています。フレディマックなど政府系会社に、サブプライムローンを「時価」に減額して買い取らせ、債務者には、その買い取った額で新たにローンを設定するという内容です。オバマ大統領は、7兆円の公的資金を投入し、借り手の返済負担を圧縮し、協力した債権者には報奨金を出すことにし、インセンティブを高めて、債務者救済につながる処理を打ち出しています。

日本では、大銀行には総額12兆円超の公的資金が投入され、20年近く納税を免れるなど優遇措置の恩恵を受けてきましたが、債務者は過剰債務に苦しんだままです。末端の国民が救済される公的資金の入れ方をすべきです。(山本 弘之)


「銀行の貸し手責任を問う会」の8つの要請

①整理回収機構の解散
②連帯保証人に対する取りたての規制
③二重ローンヘの有効な公的資金投入
④片面的拘束力をもった仲裁機関の設立
⑤印鑑などによる文書成立真正の推定の廃止
⑥銀行融資の銀行法等による規制の具体的強化
⑦金融サービサー法の改正
⑧中小企業、個人の過剰債務の抜本的解消