「ビジネスと人権」に関する行動計画改定版の原案についての意見

 「ビジネスと人権」 に関する行動計画改定版の原案についての意見

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                        弁護士  椎名麻紗枝

御庁が、「ビジネスと人権に関する行動計画」を策定し、日本の企業に対して人権尊重を啓発してこられたことには敬意を表しますが、今回発表された行動計画改定版においても、企業の取引先に対する人権問題については、外国人労働者や子供、若者の労働問題についての視点はありますが、企業の商取引の相手方については、欠落しています。

例えば、銀行と融資先、元受けと下請けなど、それぞれ優越的地位にあり決して対等な立場で取引をしているものではありません。

私は、「銀行の貸し手責任を問う会」の事務局長として、銀行が、その優越的地位を利用して融資先の相手にさまざまな理不尽な行為をしている現状をつぶさに見てきました。その中でも、バブル期に、三菱銀行をはじめ、大手銀行が、相続税対策と称して、高齢者に、変額保険をはじめ、さまざまな提案融資を行い、その後、バブル崩壊後、借金を返済できなくなった債務者に対して、住んでいた自宅に競売を強行し、自宅を奪いました。中には、借金を変額保険金で返済するために、自殺をした人も多数報告されています。まさに銀行の行ったことは、債務者の生存権的財産権を奪っただけではなく、生命まで奪っているのです。

現在も、銀行被害者は、生活の本拠である自宅を奪われないために、生活を切り詰め、銀行への利払いを続けている人もいます。しかし、銀行は利払いができなくなった債務者には、年金の入金される銀行口座などにも差押えをするなど生活の基盤も奪って平然としています。

このような銀行による横暴な事態が横行しているのは、銀行の取引相手に対する人権問題がなおざりにされているからです。

しかし、この問題は、日本だけの問題ではありません。アメリカでの同種の問題が起こりました。サブプライム問題です。

2008年9月に、リーマンショックを引き起こしたサブプライムローンの破綻は、世界的な金融危機をもたらしましたが、一方では、サブプライムローンの債務者を悲惨で深刻な生存の危機に陥れました。全米では、400万世帯が住んでいた自宅を差し押さえられ、「生存的財産権」を奪われ、多くの債務者がホームレスの状況に追い込まれたのです。

専門家からも、サブプライムローンは金融機関による略奪的融資であるとして、金融機関の横暴が非難されました。

しかし、日本のばあいとサブプライムローンとの違いは、日本の大手金融機関が、当時のバブル期の金余り現象の中で、借入先の獲得に躍起となり、資産を保有している高齢者に目をつけ、相続税対策を名目に、変額保険をはじめ、様々な提案融資を行ったことです。その数は100万件にのぼると言われます。その後1990年になり、日本のバブルが崩壊し、変額保険はじめ、銀行の提案融資によって購入した商品の値が下落したため、これらを売却しても銀行の債務を返済できなくなった債務者に対して、銀行は、容赦なく、融資の担保に差し入れさせた自宅を競売する事件が多発しました。多くの債務者は、裁判に訴えましたが、日本の裁判では、銀行の勝訴率98パーセントであるため、ほとんどが敗訴し、自宅を失うか、変額保険を購入した人の中には、銀行の借金を変額保険金で返済するために、自殺した人も多数にのぼります。まさに銀行が不法な詐欺的手法により、融資をおこなっておきながら、債務者の住んでいる自宅に強制執行申立をして、債務者の生活の基盤である住宅を奪っているのです。生存的財産権の侵害にほかならないです。ましてや、借金の返済のために、自殺に追い込むこと、国連の人権憲章にある生存権の侵害にほかなりません。

日本でも、ジャニーズ事件など、企業内部における人権問題については、日本においても認識され、これの改善に取り組まれるようになってきていますが、企業の取引先との契約において、情報格差のある一方当事者に対して、社会的信用性の高い金融機関による人権侵害については、まだ十分な理解を得ていないのが実情です。

しかし、アメリカのサブプライム債務者に対する自宅の差し押さえ事件をみるように、金融機関による取引先の相手に対する横暴な人権侵害は世界にも広く行われており、私たちも、融資一体型変額保険の販売を行い、それによる生活破綻を招いた三菱UFJ銀行の人権侵害問題を国連の人権とビジネス委員会でも取り上げてもらうべく、準備中です。

御庁が策定された原案にも、金融機関などによる取引相手に対する人権侵害問題についても、ぜひとりあげ、ガイドラインの策定を望みます。