中小企業金融円滑化法 2013年3月末で終了 「家失う」個人も恐々 ローン借り手 早急に保護を

銀行の貸し手責任を問う会事務局長・椎名麻紗枝弁護士がコメント

中小企業金融円滑化法が三月末で終了する影響が、企業だけでなく個人にも及ぶ懸念が出ている。中小企業の資金繰り支援を主目的として制定されたが、住宅ローンを抱える個人も対象としてきたからだ。 金融機関の姿勢次第では自宅を失う人が続出しかねない。(上田千秋)

「これからどうすれぱよいのか…」。神奈川県在住の三十代の女性は、そう不安を□にした。

女性の父親は二〇〇九年十二月、収入が減って住宅ローンの返済に窮し、円滑化法の適用を受けた銀行と協議して当面は利息のみを支払うように変更してもらうことができた。女性は、ローンの残債約四千二百万円の連帯保証人になった。

その後、父親は利息の支払いも滞るように。銀行から「期限までに入金がなければ残りの全額を払ってもらう 」という趣旨の内容証明郵便が女性の元に送られてきた。弁護士に相談すると、「円滑化法が終わるので取り立てが早まったんだろう」と言われたという。女性に残債を支払う当てはなく、「裁判をやっても勝てないだろうし、円滑化法も切れる。何の救済制度もないのはおかしい」と訴える。

金融庁によると、昨年九月までに適用を受けた中小企業は推定三十万~四十万社、延べ三百四十四万件。住宅 ローンでは、法人、個人合わせて約二十三万件、総額約三兆六千億円に上った。

全国銀行協会は昨年十一月、「円滑化法の期限到来後も、貸し付け条件の変更などに真摯に対応していくことが金融機関の責務」とするコメントを発表した。ただ、これだけ利用者が多い法律がなくなれば、混乱は避けら れないとみる関係者は少なくない。「倒産する中小企業や住宅ローンを返せなくなる個人が多く出るのではないか」との懸念が広がる。

「銀行の貸し手責任を問う会」の事務局長を務める椎名麻紗枝弁護士は「金融機関はもともと円滑化法に反対だった。終了したからといってすぐに対応を変えることはないだろうが、半年もすれば厳しい態度に出てくるのでは」と話す。

住宅ローンを支払えなくなると、任意売却を求められたり、競売に掛けられたりするなどして自宅を失うことになる。冒頭の女性のように、連帯保証人が返済を求められるケースもある。住宅ローンの債務は、クレジットカーードや消費者金融に比べると圧倒的に金額が多いため、返済不能になった時の影響も大きい。

椎名弁護士は「一からやり直すのは難しい年になっている人が多いし、親族や知人が助けられる金額でもない」と深刻さを強調する。

時限立法である円滑化法が切れることは最初から分かっていた。国は代わりの法律を用意しておかなければいけなかった。連帯保証人の保護を合めて、抜本的な救済策を早急に考える必要がある」

債務の返済猶予規定

中小企業金融円滑化法 2008年9月のリーマン・ショック後の資金繰り悪化を受け、09年12月に施行された。金融機関に対し、運転資金の返済が困難になった中小企業や住宅ローンの借り手らから返済猶予などを要請された場合、できる限り応じるよう求めている。当初は11年3月までの時限立法だったが、経済環境が改善しないため、2度にわたり延長された。

<えとき左>銀行の住宅ローン窓口。円滑化法終了で、個人への影響も懸念される=東京都内で(本文とは関係ありません)

<えとき右>「早急に対策を考える必要がある」と訴える椎名麻紗枝弁護士=東京都千代田区で

<< 1 >> 1ページ中1ページ目