【レジュメ】
 二重ローン救済システムのあり方について一英国の実践例を参考に
            金融消費者問題研究所 楠本くに代

1.英国の金融オンプズマン・サービス


◇早期、形式は最小限に抑えて、中立の立場で金融分野の紛争を解決するのが目的。
◇認可を受けた事業者が全員で費用を負担し、消費者は無料。
◇金融オンブズマン・サービスについては、金融サービス・市場法に定めが置かれており、
さらに、分野ごとに、FSAルールで細部が定められている。
@双方の話し合いによる解決、
A調査官が双方の話を聞いて解決案を提示する(強制力はない)、
Bオンプズマンの決定という多様な紛争解決ツールを備えている。
◇オンブズマンの決定は、fair and reasonable (公正、合理的)基準に照らして出される。
厳格な法的アプローチは求められていない。消費者が決定を受け入れた場合、決定は当事者双方を拘束し、事業者は裁判所への申し立てがきなくなる。消費者は、決定が不満な場
合、訴訟を提起できる。いわぱ、消費者のみが最終決定できるという片面拘束性が特徴。
◇消費者と事業者の間に生じた、ほぽすべての金融分野(融資、消費者ローン、預金、投資、保険など)の紛争はここで解決され、消費者の信頼は篤い。

2.集中多発した被害を一括救済する仕組み

(1)歴史的には、年金ミスセリング被害者の救済が端緒。1980 年代後半、個人年金が導
人され、その際、個人年金の方が企業年金より有利であるとの誤ったセールストークに基づき、多くの人が個人年金に移行したが、実際は個人年金の給付額の方が少ないことが分かり、社会問題となった。
 FSAは、不正売買がなかったかどうかを各事業者に調査させ、不正売買があり、それにより損害が生じている場合には、損害を賠償するよう命じた。その結果、約270 万人の契約の見直しがなされ、対象者には損害賠償がなされた。

(2)ワイダー・インプリケーションズとして法システムの中に定着
◇救済手法:年金ミスセリング事件の手法と同様
◇法的根拠:金融サービス・市場法第404条
<1>大蔵省が次に掲げることを示唆する証拠があると判断する場合には、第(2)項を適用する。
(a)認可業者が規則を遵守していない
(b)その結果私人が損害をこうむっている
<2>大蔵省は命令により、FSAが次に掲げる制度を設立し運営することを認可することができる。
(b)認可業者が賠償支払いを行う責任を確保すること、及び
(c)賠償支払い額の決定

◇FSAはワイダー・インプリケーション・プロセスが適用されると何をするのか

○監督
○エンフオースメント
○消費者契約不当諸規則に基づく規制
○賠償の確保
○ルールor/andガイダンスを出す

 現在、リーマン保証仕組債の被害者約5000人の救済に、このツールが使われている。

3.債権質取機構の片面的拘束性を有する仲裁権限(椎名先生提言B)
これの成功は、次の「4」に繋げることができる。

4.一括救済が必要な事案ごとに柔軟に対応できるシステムを構築――過去の金融被害者、将来の金融被害者の救済システム構築の原点になるだろう

@個別の事案解決システムとしてのオンブズマンの構築(基本)
 ◇英国のオンプズマン・サービスのように、3段階の解決ツールを持つ
 ◇片面拘束性が鉄則
Aプラス、日本版ワイダー・インプリケーションズ

第1ケース:不当売買 問題の探知⇒金融庁の調査⇒不当売買がなされたことが疑われた場合、各事業者に個別契約の調査命令を出す⇒金融庁監督の下、裁判外で、損害賠償

第2ケース:大震災、原発事故のような事態が生じた場合、被害の性格・特質に応じた一括救済の枠組みを直ちにたちあげる。