■貸金業法などの改正の背後で、
    今何が起きているか。


◆金融サービサー法が容認する貸金業法の脱法◆

 2007年12月19日には、貸金業法(貸金業規制法が改正)が、施行され、取り立ての規制の強化がはかられた。また、10年6月までに灰色金利が撤廃される。多重債務者の救済では、大きな前進があったと評価できる。
 しかし、一方では、過払い利息の返還請求訴訟の多発、さらに利息制限法の改正などで
、倒産や廃業する会社が続出し、5年前は、約2万7000社あった貸金業者は、すで に1万775社にまで減っている。そのため、消費者金融は、金融サービサー業(債権 取立業)に活路を見いだそうとしているのだ。不良債権ビジネスは、非常にうまみのあ る商売だからである。
 国会でも明らかになったことであるが、整理回収機構が、金融機関から、一律100 0円で買い取った6000件の不良債権で、なんと約112億円も回収しているのであ る。つまり、600万円の元手で、112億円も儲けたことになる。
 言うまでもなく、金融機関が回収を諦めて売却した不良債権である。尋常な取り立てでは、とうていこれだけの巨額の回収をはかることはできない。債務者や消費者の人権を無視した強引な取り立てが、行われているのである。とりわけ、連帯保証人に対する過酷な取り立てが、特徴的である。
 貸金業法は、21条に「取り立て行為の規制」として、細かい規制を定めているが、金融サービサーは、貸金業者ではないため、貸金業の規制は及ばない。
 ただ、貸金業者の貸金債権の譲渡を受けたばあいについては、その取り立てについては、貸金業法24条で、同法21条の規制をうけるとされているので、貸金業者からの債権についてのみ、取り立ての規制がかかる。
 そのために、整理回収機構や金融サービサーは、親族に返済を要求したり、債者の勤務先を訪問したりなど貸金業法21条で禁止されている取り立てを平然と行っている。
 金融サービサー業務は、貸金業法の規制を逃れられ、しかも、利息制限法で禁止され
ている以上の高利益を得られるのだ。金融サービサー法は、まさに貸金業と利息制限法
の脱法を公認しているものだ。

◆国民年金、地方税の徴収などにまで拡大される危険◆

 金融サービサーは、弁護士法の特例として、1999年に法務大臣の許可を受けた業者に限り、債権回収業を解禁されることになったものだ。
 不良債権の迅速な処理が、日本経済の再生には不可欠であると考えた政府自民党が、アメリカでは不良債権処理に使われている金融サービサー制度に着目して、これを日本に導入したからである。
 しかし、金融サービサーの業務が、金融機関の債権回収に限定されていたのが、金融サービサー協会は、金融サービサー法を改正し、さまざまな分野の未払い債権の取り立てができるようにすることを狙っている。
 金融サービサーは、法施行されて8年あまりの間に、110社を超えているが、これらの会社の出資母体によって、債権回収(実質は投下資本の回収)の手法は、異なる。
 消費者金融系金融サービサーは、外資系、金融機関系金融サービサーとは違って、小口の債権回収に強みがある。
 2006年施行された公共サービス改革法(市場化テスト法)により、国民年金保険料収納事業などが、モデル事業となっているが、国民年金保険料はサービサー法上の特定金銭債権ではないため、これの業務の受託を行うには法務大臣の兼業承認を取得しなければならない。さらに、今後は、地方自治体から、税、奨学金などの貸付金、公営住宅の家賃などの徴収業務の需要も多いことが予測される。市場化テスト法で、取扱が認められた徴収関連業務を、サービサーが取扱できる業務とすることを狙って、法改正を与党、法務省に強力に働きかけた。前の国会には、与党議員提案で、金融サービサー法の改正案が提出され、今国会に継続審議となっている。

◆金融サービサーによる企業乗っ取り◆

 外資系や金融機関系の金融サービサーは、M&Aによる企業買収のノウハウを活かして、「企業再生」により、投下資本の回収をはかろうとするケースが増えている。
 しかし、「企業再生」というのは、名ばかりである。
 外資系債権回収会社は、「ハゲタカ」の異名を得ているように、銀行から債権を買い取った上で、資産調査した上で、優良企業であることが判明すれば、会社乗っ取りをすることでも知られている。
 外資系債権回収のやり方は、第一段階は、返済条件についての交渉から始まる。つまり、債権譲渡を受けた段階で、債務者に対し、返済条件の提示を求める。その次に、債務者からの提示された条件が妥当かどうかを判断するのに必要だからという口実で、債務者の会計帳簿の開示を要求する。会計帳簿から会社の経営にクレームをつけ、経営努力をすればもっと収益は伸ばせるし、返済額も増額させられる筈だと主張し、主力債権者として、債務者企業への役員派遣を要求する。これに応じなければ、債務の一括返済をしろ、それができなければ法的手段に訴えると脅かす。つまり、担保権の実行だ。そうなれば、担保物件とされている会社の店舗、あるいは会社工場が競売に付される。そうなれば、企業としての存続は危ぶまれる。担保権実行は、債務者にとっては、これ以上の脅しはない。やむを得ず、債権者の要求どおり、役員を受け入れざるをえなくなる。
 金融サービサーから送りこまれた役員は、その権限を利用して、債務者企業の決算を巧みに実態より悪く粉飾する。マイナス粉飾決算である。顕著な債務超過を作出した上で、金融サービサーは、担保権実行ならびに会社更生法の適用申請や破産申立などを行う。
 従来の経営者を排除し、他の債権者に対しては、作出された決算書をベースにして策定された返済条件を受け入れさせるためである。
 つまり、外資系金融サービサーの企業再建というのは、担保権実行と会社更生法や破産
の申立を巧みに使って、金融サービサー主導のもとに、経営者と債権者を排除して、「負」を廉価に整理した上で、企業を他に高く売却して利益を得る手法である。
 バブル崩壊が危惧されている韓国では、外資系のファンドが、同様の手口で企業乗っ取りを画策する事件が横行し、韓国政府もこれに対処するため、詐欺罪などの刑事事件による摘発が相次いでいるということだが、日本では、外資系債権回収会社だけではなく、国策会社である整理回収機構が同様な手口をとって「企業再生」をはかっているため、金融庁も厳しい対応をとりきれていない。
 しかし、ここ最近、ライブドアによる日本放送の株買い占めをはじめ、ステイール・パートナーズによるブルドックソースの株買い占めなど、敵対的買収が起きている。
 買収側は、含み資産のあるこれらの会社に目をつけ、それを株主に分配することを餌に、密かに株主の合意を取り付け、会社を計画的につぶし、利益を吸い取った残りで企業を再出発させようというものである。だから、企業を地道に経営しようという意図はない。仮に、買収に失敗しても、高値で買い取らせることができるので、高額な利益が得られる。これらは、グリーンメーラーとか濫用的買収者とも呼ばれる。
 そして、あまり気づかれていないことだが、これと同じ企業乗っ取りが、金融サービサーによる投下資本の回収に使われているのである。「株主」ならぬ「債権者」による企業乗っ取りである。手法は、まったく同一である。
 違うのは、敵対的買収のばあいは、株を買い占め、多数の株を保有しなければならないのに対して、金融サービサーによる企業乗っ取りのばあいは、多額の債権を有すればよいという点である。金融サービサーのばあいは、金融機関からきわめて廉価に債権を買い取っているから、敵対的買収よりはるかにコストは安くてすむという大きな利点がある。外資系金融サービサーは、ここに目をつけたのである。
 敵対的買収に関して、「株主主権論」の是非が問われ、あらためて「会社は誰のものか」が論じられたが、もう一度「会社は、有力債権者のものか」が論議される必要がある。

◆債務者・連帯保証人の権利保障を重視した法改正の必要性◆
 
 <債務者・連帯保証人の権利保障を>
  
 債権者、金融サービサーが、債権回収の極大化をはかることは、債務者、連帯保証人から見れば、生活圧迫に直結する問題である。
  不動産の競売申立はもちろん、会社の売り掛け債権の差し押さえ、連帯保証人の給与の差し押さえ、連帯保証人に対する破産申立等々、過酷な債権回収により、多くの人が生活破綻に追い込まれている。
 ところで、金融機関から譲渡された債権の買い取りのばあいは、債権額より、はるかに廉価に買い取られたものであり、買い取った債権者の債権回収は、原債権者が債権回収するのとは違って、実質は投下資本の回収に相当する。そうであれば、譲渡された債権については、投下資本の回収の見地から債務者との利害の調整をはかり、債権回収に制限を加えても、債権者に不当  な不利益を課すことにはならない 。むしろ、当事者間の実質的公平に寄与  するものである。

 <金融サービサーに対してどのような回収規制をすべきか>

(1)、回収の上限を規制することについて
  金融サービサー等が回収する債権は、貸付債権。債権者が、貸付債権の額面どおりの回収すると暴利を貪ったと実質変わらない。利息制限法との均衡からも、回収の上限を定めるべきである。
 そのためには、買取価格の情報開示を金融機関ならびに金融サービサーに義務づけ買取価格に応じた回収上限を定めることにより、不当な金融サービサーの暴利行為を規制できる。
(2)、連帯保証人の取り立て禁止について
  金融サービサー等が、債権を買い受けるとき、連帯保証人の資力等は考慮されず、債権買取価格は決定される。
  従って、連帯保証人らの取立を禁止しても、予想外の不利益をこうむらせることにはならない。少なくとも、連帯保証人の給与の差し押さえや自宅の差し押さえ、破産申立は禁止すべきである。
(3)、取り立て行為の規制
  貸金業では、貸金業法21条に「取り立て行為の規制」として、細かい規制が定められているが、金融サービサーは、貸金業者ではないので、一般に、同法の適用はない。
  ただ、貸金業法24条が、貸金業者の貸金債権を譲渡されたばあいについては、その取り立てについては、同法21条の規制をうけるとしているので、貸金業者からの債権についてのみ、取り立ての規制がかかる。
そのために、整理回収機構や金融サービサーは、親族に返済を要求したり、債者の勤務先を訪問したりなど貸金業法21条で禁止されている取り立てが平然と行われている。
金融サービサー、整理回収機構の取り立てについても、貸金業法21条のような回収行為の規制を法的に明確化すべきである。