■全国商工新聞2009.01.19号一面大特集記事全文
600万円で112億円のボロもうけ
借金の取り立て屋=金融サービサーの規制を
不良債権ビジネスの深き闇を告発する椎名麻紗枝弁護士に聞く
銀行から不良債権を二束三文で買い取り、高額で回収し利益をあげる「金融サービサー 」(サービサー)。民主商工会(民商)会員からも「自宅や事業所の競売をかけられてい る」「滞納していた国民年金保険料の催告書が債権回収会社からきた」などの相談が寄せ られています。滞納した税金や医療費、奨学金の取り立てにまで手を伸ばそうとしている サービサーの実態はどうなっているのか。『無法回収−不良債権ビジネスの底知れぬ深き 闇』の著者の一人、椎名麻紗枝弁護士に聞きました。 |
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不良債権ビジネス?!
金融サービサーというのは、銀行など金融機関が持つ不良債権をできるだけ安く買い取 り、可能な限り高い金額を回収し、その差額でもうけようという会社です。「借金の取り立て屋」です。 不良債権は、もともと銀行が回収の見込みがないと判断したものですね。その不良債権 の債務者は、銀行から担保不動産を競売にかけられたりしている。いねば身ぐるみはがされた状態にあります。 そんな人たちからどうして取り立てができるのか。誰もが疑問を持ちますが、これがビ ジネスになる。しかも驚くようなもうけを上げています。 例えば「国策会社」でもある「整理回収機構」(RCC)。銀行から無担保債権を一律 1000円で買い取って2004年9月末までに、わずか600万円の元手でI12億円もの収益を上げています。これはどの収益を上げる会社が日本のどこにあるでしょうか。 もうかるからこそ、「サラ金業のうまみ」がなくなった大手消費者金融が債権回収業務に 参入してきているのも大きな特徴です。すでに大臣の認可を得ずに消費者金融が「もぐり」でサービサー業務をおこない摘発された業者も生まれています。 債権回収の手口は、企業乗っ取りと「連帯保証人」をターゲットにすることです。 企業乗っ取りでは、技術などがある優良な中小企業に目をつけ、大口の債権者になる。 決算書などの資料を要求し、役員を送り込む。断れば、会社更生法をかける、破産を申し 立てるなどと脅す。経営者を追い出し、更生計画に基づいて「債務整理」をしたうえ、きれいにして企業を高く売り払うというものです。 連帯保証人については、銀行はこれまで回収の対象としてき圭せんでした。裁判を起こ して判決を得て強制執行するしかないからです。コストも時間もかかる。それに見合う回収もできるかどうか分からないからです。 サービサーは銀行から連帯保証人がついたままの債権を買い取ります。そして例えば、 連帯保証人とその妻が共有する自宅の競売を申し立てる。心理的プレッシャーを与えるわけです。それによって自宅を失いたくない妻は、実家からお金を借りて、借金を払うこと になるのです。 サービサーは「暴力団を使っているわけではない」「違法ではない」などと胸を張りま す。でもこの手口は人間を食い殺す商売と言わなければなりません。 滞納税金徴収も狙う こうしたサービサーが将来、新たな市場として狙っているのが、未納の年金、医療費、 税金、給食費、奨学金などの回収業務です。 すでに電話料金の案内代行(料金通知)業務に携わったり、地方自治体の徴税担当職員を集めた研修会の講師を務めるなど、着々と手を打ってきています。 奈良県では県営住宅家賃の未収金回収業務をサービサーに委託しています。 もともとサービサーは弁護土俵の特例措置として出発したものです。 しかし、これを「業俵」に格上げしたい。その足がかりとして考えているのが、すでに国会に提出されている金融サービサー法「改正」実に盛り込まれた倒産関連債権の取り扱 いです。 この債権は、民事再生や法的処理をしないで自主整理、任意整理をしているような会社の債権です。これが加われば、銀行など金融機関の有する債権に限定されていたサービサ ーの取扱債権の″垣根″が取り払われることになります。そして「公的な性格の強い債権 」、つまり税金、医療費の分野にもサービサー業務を広げていこうと考えているわけです 。それは「第二のサラ金地獄」どころか、それ以上の被害をつくり出すことになるでしょ う。これを許してはなりません。 連帯保証人への取り立てを規制し、サービサーによる破産申し立てを禁止する。あるい は買い取り価格を初めとした情報開示を徹底させる――などを内容とするサービサー規制 法の制定は、待ったなしの課題です。 ▼サービサー会社 現在I13社。07年6月末の取扱件数は4955万件。取扱債権額 は207兆円で回収額は21兆4115債円。トヨタの国内販売高に匹敵。 ▼金融サービサー法 1999年施行。債権回収業務は弁護士以外手がけることは許されていなかったが、不 良債権の迅速な処理のため弁護士法の特例として制定。参考にしたのはアメリカの不良債権処理に活用された「金融サービサー制度」 【こんな事例が】 《民商に寄せられたサービサーの回収による相談例》 自宅兼事務所が競売に Aさんは、父親を連帯保証人として巣鴨信金(東京)から事業資金を借りていましたが10年前に倒産。同借金は残金の1500万円を東京債権回収会社(東京債権)に債権譲渡 しました。東京債権は月々の返済として35万円を連帯保証人である父親に請求。月々の 返済を7万円から徐々にあげ、7年での完済案を提示しましたが、東京債権は拒否。逆に 金利14・6%で5000万円以上の返済計画書を提示、押印を求めてきました。これに 応じられなければ自宅兼事業所を競売にかけるとして、手続きを開始。父親は民商ととも に法務省とも交渉、競売の中止を求めています。 4000万円払えと訴状 恵京都調布市在住のBさんは大手都市銀行から借入金がありましたが、同行は突然債権 回収会社に債権を譲渡。年金収入だけのBさんは訪れたサービサー会社の社員に借入金の 経過などを説明、減額などを求めたものの「一切関係ない話」と、返済だけを要求されました。 結論が出ないまま社員は「よく考えておいてください」と帰ったものの、その直後、東京地裁から4000万円以上の返済を求める訴状が送られてきました。 Bさんは一方的・機械的なやり方は「適正ではない」と民商とともに法務省に申し入れ しました。 裁判でも粘り強くたたかった結果200万円以下の金額で和解となりました。
【全商運の要求】 全商運は国会に提出されている「金融サービサー法『改正』案」に反対する立場から次の要求を掲げでいます。 @債権売買価格を債務者に開示することを義務づけること A居心却価格に応じた債権回収の上限をもうけるなどのルール整備 B連帯保証人に対する回収の禁止 C債権管理回収業に関する業務の範囲の拡大は行わないこと
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