「金融取引紛争解決機構」 提案理由
 


1996年11月のビッグバン宣言以来、消費者の金融取引に関わる訴訟外紛争解決機関の設立が審議会等で議論されてきた。例えば、1997年6月13日に出された金融制度調査会答申では、「多様かつ複雑な商品が登場することに対応して、司法手続きに至る前段階で簡便に苦情、紛争の処理を図るため、民間レベルで、利用者に信頼されるような苦情処理・紛争処理のための仕組みを整える必要があると考えられる。」と答申されていた。この問題は、新しい金融の流れに関する懇談会に引き継がれ、懇談会の論点整理には、法の実効性の確保に必要な仕組みとして、訴訟外紛争処理制度の拡充やそのあり方の検討が必要である旨が提言されていた。金融審議会においても、訴訟外紛争処理制度は、重点課題として議論されていたが、金融審議会最終答申(2000年6月27日)では、「意見を一致させることはできなかった」と前置きして、「統一的・包括的な第三者型機関を設立するメリットは少なくなく、中長期的には一つの理想型として評価すべき」と指摘するに止まっており、期待していた訴訟外紛争解決機関についての具体像は示されなかった。
議論は、金融審議会の提言により設置された、金融トラブル連絡調整協議会に引継がれているが、ここでのテーマは、個別紛争処理における機関間連携の強化、苦情・紛争処理手続の透明化、苦情・処理事案のフォローアップ体制の充実、苦情処理実績に関する積極的公表、広報活動を含む消費者アクセスの改善に止まり、新しい金融市場にふさわしい新しい訴訟外紛争解決機関の設立からは大きく隔たっている。さらに、期待していた司法改革審議会の中間報告も、金融取引分野のADRについては何らの言及もしていない。
一方、国民生活センターをはじめ全国の消費者センターへの金融商品に関わる苦情は年々増加している。これらの機関の処理は、強制力のない斡旋に止まり、事業者側が受け入れるケースはまれであり、弁護士や裁判所の紹介で終わるケースが大部分をしめる。また、銀行・生保関連裁判件数は(東京地裁資料調査結果)右肩上がりに増加し、1998年には3090件を数えているが、消費者側勝訴の判決は極めて少なく、司法のあり方への消費者の不満はかってなく高まっている。さらに、債務弁済協定調停事件は、民事調停事件の76%を占めるに至っているが(188、498件―1998年)、調停成立は3割にみたない状況である。ちなみに、毎年かなりの数の相談が寄せられていた、行政唯一の訴訟外紛争解決システムともいうべき、証券取引法上の仲介は、何らの総括もないまま、改革と拡充の期待をよそに、知らないうちに廃止されてしまっている。
ビッグバンが完了し、市場は自由化され、新しいリスクの多い金融商品が消費者に日常的に売られるようになっているにもかかわらず、紛争という負の資産への対処策はなにも講じられていないのが現状であり、欧米ビッグバン先進国とは大きく隔たっている。ビッグバン宣言以来四年、私達は審議会行政に期待してきた。しかし、上記金融トラブル連絡調整協議会の審議の実態をみると、このまま通常の行政の取組に任せておいたのでは、新しい時代にふさわしい金融取引訴訟外紛争解決機関の実現は不可能との結論に達しざるを得ない。従って、通常の行政ルートとは異なる議員立法による訴訟外紛争解決機関の設立をご検討頂きたく、「金融取引紛争解決機構」案を提出する。

  • 付:当会は最終的には英国型の包括的金融サービス法の制定をめざしている。当提案は そのうちの一部である。包括的金融サービス法の全体像は次とうりである。一〜四を順次実現してゆけば、最終的に包括的金融サービス法に集約できると考えている。



資料ページ


資料ページ