■資料

 アメリカにおけるサププライムローン債務者救済に関する訪米調査報告書
           
        2009年2月15日
              銀行の貸し手責任を問う会
                   事務局長椎名麻紗枝(弁護士)


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2008年6月に、Housing and Economic Recovery Act of 2008 (HOPE for
Homeowner Act of 2008)が可決された(資料1)。この法律は、フレデイマック、ファニーメイなどの政府がスポンサーになっている会社に、サブプライムローンを「時価」で買い取らせ、債務者には、その買い取った額であらたにローンを設定するというものである。
 この計画は、2008年10月から、2011年9月まで実施されることになっている。
 この法律の適用を受けるのは、
 @サブプライムローンの債務者が自己の居住に使っていることが要件であり、投資目的やセコンドホームではないこと。
 A2008年3月時において、ローンの月返済が、月平均の収入の最低31パーセントを超えること。
 B他の抵当債務が債務不履行になったり、他のローンを詐欺行為で得たものではないことを証明すること
 C詐欺罪で有罪判決を受けたことがないこと。

 この法律の特徴は、ファニーメイなどが、買い取ったばあいに、債務も減額された上、債務者の資力に応じた融資が新たに継続される点が、日本の整理回収機構や金融サービサーヘの債権売却と基本的に異なる。
 なお、債務者が、将来自宅を売却するばあいに、その額より高く売れるばあいには、その差額を国策会社と債務者が、折半するということになっている。
 ただし、この法はサブプライムローンの債務者を救済するには、大変優れているが、実効性に問題がある。すなわち、モーゲージ会社や債権者に債権を売却することを強制できないので、これが適用されたケースは、25例しかないという。そのため、オバマ政権が近日中に発表することになっている政策に、期待が集まっている(資料2)。

<2>
差押えの規制

 サブプライムローンの債務者の自宅の差押えは、1998 年から2006年までに220万件を超え、2008年末には400万件。そして、最近の報道でも、90万件の家が、空き家になっているという。
 サブプライムローンの債務者の多いカリフォルニア州では、差押えの条件を厳しくして、差押えを困難にする新しい法規制をしている。また、カリフォルニアのばあい、抵当権の差押え手続は、裁判所ではなく、州が行うとされているため、差押えが増大したたため、州の財政を圧迫したとして、シュワルツネッガー知事が、銀行やモーゲジー会社などに訴訟を起こしたという。そして、政府も、本年2月11日に、貸し手に、オバマ大統領が自宅持ち主の救済策を公開するまで、差押えを停止するよう呼びかけた。


毎日2009.02.19付

<3>破産法の改正

 アメリカの破産法は、2類型があり、再生型破産手続(日本の民事再生法に類似)によれば、債務者は再度やり直しが期待できるが、そのばあいでも、抵当権は、別除権が認められているため、抵当権者が、再生に協力せず、あくまでも抵当権の実行を強引にすすめようとするばあいには、再生の計画は頓挫する。日本の民事再生法でも、同様の問題があって、再生の障碍となっている。
 そこで、アメリカでは、現在破産法を改正して、抵当権の権限を抑制しようという試みが検討されている。

日経2009.02.20付
【追記】

 私がアメリカから帰国した直後の2月19日付の新聞に、オバマ大統領が下記のような政策を発表したことが報道された。
 それによれば、オバマ大統領は7兆円の公的資金を投入し、借り手の返済負担を軽減させようとするもので、公的資金を受ける金融機関に住宅差押え対策への参加を義務づけ、半ば強制的に金融機関の協力を促すというものである。それには、サププライムローンの返済負担を軽減するほか、協力した債権者には報奨金を出すなどというものである。