■毎日新聞2010.06.02付報道記事 銀行の貸し手責任を問う会事務局長がコメント寄せる
 連帯保証人保護へ
  法制審説明義務規定を検討<一面記事>

生活破綻や自殺の要因になるとの指摘を受けている連帯保証人制度について、法相の諮問機関である法制審議会は、保証人を保護する観点から民法改正の検討に着手した。保証人への事前説明や、債務者の資金繰りなどの情報提供を金融機関に義務付ける制度を導入する是非について議論を進める。 (社会面に関連記事) 
 連帯保証は、不動産などの担保を持ち合わせない中小企業経営者らが融資を受ける際、自身の信用を補うために第三者が連帯して債務を保証する制度。通常の保証制度と異なり、連帯保証人が債務者と同様の返済義務を負う。
債務者が行方不明になった際には、貸手は債務者を捜す必要もなく、連帯保証人に返済を請求できる。金融機関などの融資の大半は連帯保証人制度が使われている。
 一方で、契約する際に必ずしも連帯保証人への説明が十分でなく、知らない間に多額の返済を迫られるケースも多い。連帯保証契約を結んだ直後に債務者に計画倒産されるような詐欺まがいの被害に遭う連帯保証人もいるとされる。
 こうしたことから法務省は、民法の債権関係条文の見直しを進めている法制審民法(債権関係)部会で「保証人が多額の保証債務の履行を求められ生活破綻に追い込まれる事例が後を絶たず、一層の保証人保護の拡充を求める意見がある」と指摘。保証契約を結ぶ際に、保証人に十分理解できるように説明することを義務付ける「説明義務」や、債務者の資金繰り情報を保証人に提供することを金融機関に義務付ける制度の導入を民法改正の論点に盛り込んだ。
 民法で説明義務の規定が創設されれば、契約時に事前説明が不十分だった場合などは、保証人側が損害賠償請求や契約無効の確認を求める訴訟が起こしやすくなる。
 ただ、連帯保証人制度そのものは「制度がなければ融資が受けにくくなる」との中小企業の指摘も根強く、欧米でも同様の制度を採用しているとして、存続を前提としている。
 民主党は昨年公表した政策集で「自殺の大きな要因となっている連帯保証人制度について、廃止も含め在り方を検討する」と言及。政府の自殺総合対策会議も今年2月に決定した自殺対策緊急プランで、連帯保証制度の在り方の検討を盛り込んだ。このため法制審でも民法改正の議論が必要と判断した。
 保証制度を巡っては05年4月の民法改正で、企業が金融機関から融資を受ける際、その企業の経営者らが金額や期間の制限なしで保証人を務める「包括根保証」制度が廃止されたが、この際も中小企業経営者らの破産や自殺が相次いだことが改正に結びついた。
     【石川淳一 記者】

 連帯保証人制度見直しヘ
 生活破綻 後絶たず<社会面記事>

 年間3万人を超す自殺の原因のIつと指摘される連帯保証人制度について、法制審議会が見直しに着手した。専門家は「連帯保証人は借り主と同じ責任を負うのに銀行はそのリスクを説明しない」と現行制度の不備を指摘。親子や取引先、雇用関係など「義理」で引き受ける連帯保証人が目立ち、軽い気持ちで契約した結果、不動産や預貯金を差し押さえられ、生活破綻に陥る例は後を絶たないという。
 08年暮れ、首都圏の男性が妻子を残し、自宅で首つり自殺した。別居している男性の父が連帯保証人になり、本来の債務者は1カ月もたたないうちに行方不明に。男性の自宅も担保になっていたが、金融機関に差し押さえられ、競売手続きが始まっていたという。
 日本司法支援センター「法テラス」に昨年度寄せられた金銭関係のトラブル相談のうち連帯保証に関連する相談は4・4%の3520件。「連帯保証人になった知人が行方不明になり、請求が来たが逃れたい」「親の連帯保証人になっているが支払いたくない」。実際に請求が来て初めて危機に直面するケースが多い。
 連帯保証人制度の見直しを求める「銀行の貸し手責任を問う会」事務局長の椎名麻紗枝弁護士は「金融機関は説明書面に押印があれば『説明した』と主張する。説明義務を民法に盛り込むだけでは不十分だ」と主張。親族や雇用関係者を連帯保証人の対象者から外すことや「署名や押印のある私文書は本人の意思に基づくと推定する」と規定する民事訴訟法の改正などを訴える。  【石川淳一記者 】