「デイリータイムズ」連載・糾弾レポート<第3弾>
伏魔殿 整理回収機構(RCC)の正体
「罪と罰」を問う

ジャーナリスト・今西憲之
中坊公平RCC元社長の「非行」と懲戒請求を
却下した大阪弁護士会
【2004年11月号】 詐欺的な回収を認めながらも、懲戒請求に対しては請求期限が過ぎているという理由で却下した。一貫性に欠いた「玉虫色の決定」であることは否めない。国策会社RCCを舞台にして繰り広げられた「非行」は、こんなことで頬かむりできるようなことではないはずだ。泥棒が被害者に金を返したら無罪というのだろうか――。
弁護士の襟を正させるのは誰だ!?
 去る10月4日、整理回収機構(以下、RCC)の元社長で弁護士の中坊公平氏に申し立てられていた「懲戒処分の請求」が、大阪弁護士会(宮崎誠会長)によって却下された。
 中坊氏に懲戒請求を申し立てていたのは、兵庫県芦屋市に在住する男性だった。本誌でも2度にわたって指摘したようにRCCは中坊氏がRCCの社長時代、大阪府堺市の土地取引で別の抵当権者に間違った情報を与え誤信させるという詐欺的な回収を企て、自己の回収金額を増大させていた。
 この件に関して、のちに東京地検特捜部は「外形的に犯罪は成立するが、個人の利得ではない」として起訴猶予処分としているのだ。
 芦屋市の男性は汀中坊氏の行為は弁護士として問題だ」と声をあげて、懲戒処分を請求したのである。
 一連の報道を総合すれば、大阪弁護士会は「RCCの回収金額を増やした行為は、非行にあたる」と認定しているのだ。
 しかし、「懲戒請求は申し立て期間の3年を過ぎている」「中坊氏の非行は、RCCの社長であった時まで。そこから3年以内の請求期限がすでに経過している」というのだ。「申し立て期限」、わかりやすくいえば、「時効」を楯に請求を却下したのだ。
 振り返ること、ちょうど1年前。昨年(2003年)の10月10日に、中坊氏は大阪弁護士会の退会届を提出した。東京地検特捜部で2度の事情聴取を受け、「ヤバイ」と判断したのだろう。あっさり、自ら退会を申し出かのだった。
 それでも、自らの関与は否定し「部下の責任を自分でとる」と恰好ばかりをつけていた。
 その象徴の一つが、記者会見である。これまでに、弁護士が退会届を出すという理由で記者会見をした例があるのだろうか。おまけに、中坊氏は当時の大阪弁護士会会長(高階貞男氏)など幹部連中を大名行列のように引き連れて、会見場に乗り込んできたのである。中坊氏は「非行」を理由に、退会届けを出すというのである。それは決して「勇退」ではないのだ。
 RCCが虚偽の事実を告知することで他の債権者をだまし、多額の債権を回収して利益をあげているのだ。詐欺罪が成立するのは当然ではないだろうか。それを「部下の責任を自分でとる」と、監督責任で退会するという説明は全くおかしいのである。
 中坊氏に懲戒請求した男性は、当初、大阪弁護士会に請求を出すことをためらっていたという。
 「大阪弁護士会は中坊氏が牛耳っており、公平な審査がされるかは疑問。日本弁護士連合会に申請したほうがいいのではないか]
 事実この男性も一度は日弁連に懲戒を請求したのである。ところが後日、日弁連が「大阪弁護士会に」と回答したために大阪弁護士会に提出したのである。
 非行はあるが、申し立て期限で無効という足して2で割るような大阪弁護士会の結論。男性の危惧がはからずとも、立証された形である。
 当時の中坊氏の、不適切な債権回収という事実の「非行」は認定しながらも、懲戒の請求に対しては却下した大阪弁護士会の宮崎誠会長は次のようなコメントを出している。
 「今回の結論は、非行を認めた上で3年間の期間経過を理由とするものであり、当会は懲戒委員会の議決内容を厳粛に受け止めている。市民に信頼される存在であり続けるために、高い倫理の確立に向けて、一層の努力を重ねていく」

 木で鼻をくくったような弁護士達

 中坊氏に対して、もう一人懲戒を請求している人物がいる。中坊氏の「非行」に職をなげうって東京地検特捜部に敢然と内部告発した増田修造氏である。
 こんな結果は予想していました。弁護士の懲戒制度なんて、所詮は恰好ばっかりつけているだけですよ」
 増田氏は、自ら請求した懲戒処分についての審査に憤慨するのだ。今年6月、増田氏は大阪弁護士会(綱紀委員会・鈴木康隆委員長)に呼ばれ、中坊氏の懲戒について事情を聞かれた。綱紀委員と呼ばれる3人の弁護士を前に、中坊氏の「非行」について詳細を証言した。
 増田氏がとりわけ強調したのは、東京地検特捜部の「犯罪事実を認めた上での起訴猶予処分」であることはいうまでもない。
 すると、弁護士の1人はこう口火を切ったのである。
 「あなた、中坊会員のそれが犯罪だと証明することはできますか」
 「新聞などでも報じられているように、犯罪は成立しているが、起訴して罪を問うほどではないと出ています。すべて報道は同じ内容ですよ」

 「結論は不起訴。起訴猶予という言葉は検察サイドの言葉で、法的には不起訴となる。犯罪事実があったかどうかわかりませんよね」
 木を鼻でくくったような対応に増田氏はカチンときた。そして、追い打ちをかけるように、 「中坊会員の犯罪を証明してください」と、弁護士からせめたてられた。
 犯罪を証明することができるのは、警察であり検察である。個人ではできるわけがない。不可能なことは明白である。
 実は、増田氏はもう一つの論点を主張していた。中坊氏が大阪弁護士会に退会届を出した時の記者会見で「嘘をついた」ことだ。
 「RCCでは無給で仕事をしていた」と中坊氏は語ったが、いくつものマスコミで記事になっている通り、中坊氏は給料を得ていた時期があった。それは、RCCも認めているのだ。
 増田氏はその論点についても、マスコミの記事を添付して説明した。これに対しても、弁護士から「あなたが、もらっていたということを証明できますか」と追及された。
 「それより、大阪弁護士会からRCCにお問い合わせ頂ければいいのではないか」
 そう答える増田氏に対して、
 「あなたに証明してほしんいのです」とさらに迫ったのだ。
 弁護士たちはそう言うばかりで、まったく埓があかなかったのである。
 「請求却下という結論は最初から出ているように感じました。個人で犯罪を証明しろ、給料をもらっていたという確証を出せでしょう。できるわけがありません。一般人に無理難題を押しつけて、それができない、証明が足りないからと却下するストーリー。本当に腐っていますね」
 かつて、懲戒請求の結果で弁護士会カ檀己者会見を開いたことはなかったという。本来なら、懲戒処分にあたらないとされた時点で、中坊氏が提出した大阪弁護士会の退会届は受理されなければならないが、記者会見ではその点についても、明言はなかった。
 増田氏の懲戒請求に結論が出ていないからだろうが、主張、論点はほとんど同じ。却下されるのは確実の見通しだ。
 「税金でできた国策会社で犯罪をしているんですよ。起訴猶予された理由の一つが、民事上の和解でしょう。泥棒が後日、被害者に金を返したら、罪をまぬがれるのか」
 と増田氏は怒りを露にするのであった。

 整理回収機構(RCC)に抵抗し2年2ヵ月裁判で戦った男
            
《昔から<借金取り>を<債鬼>と呼ぶ。その<鬼>に国家権力が結びついたら……。いまのRCC(整理回収機構)だ。取立てはまさに、情け容赦がない。そんなRCCに、弁護士も雇わず戦いを挑んだ会社社長が大阪にいる。これは<蛇>に立ち向かった一匹の<蛙>の物語である――》(本誌編集部)

 所有権移転登記がもたらしたもの

 その人の名は広畑幸治さん(写真)、56歳。W社の代表取締役社長だ。
 物語は平成8年11月21日に飛ぶ。この日、阪和銀行が業務停止命令を受け、事実上倒産。翌々10年1月、同銀行の債権はRCCに譲渡された。広畑さんは、同銀行にも、ましてRCCとも無関係。まったく対岸の火事だった。

 そんな広畑さんが“事件”に巻き込まれるとは、まさに青天の寡言の出来事であった。事の発端はこうだ。
 RCCに譲渡された阪和銀行の債権の中に、広畑さんの仕事仲間で、W仕を一緒に立ち上げたTさんの借金10億6688万円金があった。Tさんが昭和63年ごろから、大阪市内でホテルやマンション建設を計画、融資を受けた資金だ。しかし、毎月120万円の返済は遅延なく続いていた。
 RCCのTさんへの取立ては、RCCが債権を買ったその年、平成10年10月から始まった。日々激しくなる取立て。が、この時点では広畑さんはまだ蚊帳の外だった。
 広畑さんによるとこの当時Tさんに「持病の糖尿病が悪化しているので退職金がほしい」と持ちかけ、交渉していたという。
 それから約1年後の平成11年9月から、取立ては法廷の場に移っていった。そんな中で、Tさんは、広畑さんの要求を受け入れ、Tさん名義の東淀川区の他のマンションの事務所2室をW社名義に書き換えるとともに、W社の代表権を広畑氏に譲った。
 この所有権移転登記が、広畑さんを“事件"に巻きこみ、広畑さんを<蛇>に立ち向かう<蛙>にする。

 弁護士も身を引くRCCとの裁判

【写真説明】整理回収機構では「回収学校」まで開いて、債権回収に躍起になった》
 平成12年8月16日、RCCが広畑さんのW社らを相手取り、「所有権移転登記の抹消登記手続きをせよ」と大阪地裁に提訴した。RCCは移転登記が財産隠しと見たのだ(RCC原告代理人/中本和洋、竹内隆夫、疋田淳、原田裕彦、王越久義)。
 <蛙>が<蛇>に向かって立つ――広畑さんは弁護士も頼まず、ひとりで法廷に立った。その理由を平成12年10月13日、法廷に提出の第1回準備書面でつぎのように書いている。
 「数名の弁護士に相談したら、裁判所は原告が預金保険機構(現RCC)であれば、証拠がなくても、不当な主張でも認める。争っても無駄であるとのこと。弁護士に支払う費用が増えるだけ、とのことで、自分で答弁します。裁判・法律は難しく迷惑をかけます」
 六法全書片手に3000字以上ある主張書面を書いた。答弁書も書いた。準備書面は何回も書いた。大阪弁護士会にRCCの弁護士(東野修次)の懲戒請求も出した。それらの中で広畑さんはこう訴え、糾弾した。
 「RCCは、詐害行為の取消権を主張し、所有権移転登記手続等請求訴訟を起こしているが、その訴状に証拠の提出もなく、また裁判所は、証拠の提出の日時や具体性を求めてはいない。公共性があるという銀行という名の金貸しが目先の利益だけで、能力も資力もない悪質な会社や個人に金を貸し、また、世の中をバブルに陥れた。最後に国民の血税をつぎ込み、解決にあたった。
 このことは銀行、大蔵省(当時)の責任であることは言うまでもない。貸し手責任を隠してでもRCCが少しでも公金を取り返すことは当然至極である。しかし、今や権力を後ろ盾にしかRCCの取立ては社会常識を逸脱している。またそれを認めている。裁判所は社会正義を名目とする取立て屋の必要悪となっており、その公正さと中立さを失っている」(平成12年10月13日第1回提出の準備書面より)
 また、移転登記の原因・退職金については、こう訴えた。
 「いま、私の欲しいのは事務所や仕事ではなく、今後ささやかに生きていくために、生活するだけのお金です」
 広畑氏は、糖尿病の余病悪化で入退院を繰り返す中、弁護士もビックリするほど精力的に活動した。証拠を出さないRCCに対し文書提出命令申立書を出し却下されると、その3日後には即時抗告申立書を出す機敏さも見せた。RCCの象徴・中坊公平前社長(当時)の証人尋問申出書も提出したのである。
 中坊氏尋問の立証趣旨は――、
 「RCCが係わると公正な裁判がおこなわれていないこと。その原因は中坊氏が作り上げたもので、中坊氏の持論である法の正義に問題があること」 というもの。
 広畑さんは、知恵の限りを尽くし戦った。
  「当時RCC相手の裁判は、早くて1週間、長くて3ヵ月で敗訴になっていることを考えると、2年余りひとりで戦えだのは、弁護士にたよらなかったのがよかったのかもしれない」と、広畑氏は言う。
 そして2年2ヵ月後の平成14年10月29日、広畑さんは敗訴した。<蛙>はやっぱり<蛙>だった。この広畑という<蛙>を飲み込んでしまったRCCという<蛇>は現在、消化不良をおこしているのではないだろうか。