「デイリータイムズ」連載・糾弾レポート<第13弾>
伏魔殿 整理回収機構(RCC)の正体
「罪と罰」を問う

ジャーナリスト・今西憲之

罪なき国民にも犠牲を強いる理念とかけ離れた
RCCの「裏の顔」
特別座談会(後編)

【写真説明】「血も涙もある回収」という理念はどこへいったのか=RCCが発足し、
東京・中野の本社で看板を掛ける中坊公平社長(中央)

【2005年10月号】 本来であれば、国策会社だからこそ保証しなければならないはずの「消費者の権利」。だが、RCCという名の国家権力が、それを踏みにじる。表向きには不良債権処理が進んでいるが、実は見せかけ。見えないところで国民に犠牲が強いられている。このまま国家の横暴がエスカレートすれば、日本は崩壊しかねない――。
            
司会/ジャーナリスト今西 憲之

■小泉―竹中ラインの経済政策がそのまま反映されている


デイリータイムズ2005年10月号
司会 RCCは国策会社であり、国民の会社でならなければならない。しかし、実態は9月号でも論議したように国民を苦しめているのが現状です。その根本には政治が密接に関係していると感じられます。
原口 ちょうど郵政民営化法案を審議していますよね。小泉政権は民営化すればいいというだけの姿勢ですが、本当は何をどうすればいいのかが問題。巨大な利権集団、道路公団のような組織を民営化して、談合体質が変わったでしょうか。

左から佐々木氏、原口氏、椎名氏
そこのけそこのけ郵政民営化か通ると強引に押し切ろうとしています。RCCもそこのけ、そこのけRCCが通るとばかりに、回収に突き進むのです。私にはとりわけ印象に残る「事件」があった。
 RCCの追及に取り組もうと、国会で質問の用意のために預金保険機構などに事前の説明を求めた。その時、やってきたのがRCCの役員で弁護士でもある人。まあ、Aさんとしておきます。「この若造、なんだ。RCCに質問するとは」って感じで、肩で風切るようにやってきました。
佐々木 小泉政権の力学をそのまま反映している。本当にいまの小泉政権に似ていますね、RCCは。
椎名
 表向きに改革などと言いながら、中身が連う。銀行が不良債権をRCCに譲渡し、見かけは減っているが、その後、子会社をつかって買い戻す。
原口 中身が伴わないのですよ。小泉一竹中ラインの金融政策が、RCCにもそのまま反映されているように感じられます。
佐々木 そうですね。いまの小泉内閣の不良債権処理路線と密接に関連している。大手銀行からRCC送りになったのが2.2兆円から2.5兆円。小泉内閣になってから22兆円の不良債権が処理されている。10%がRCC送りです。
椎名 10%の方々は、いわば死ねといわれたようなもの。経営者に家族、従業員と家族、それに取引先まで考えるとすごい数。血も涙もある回収を信じてスタートしたはずなのに、ヤミ金融顔負けの過酷な回収手段に訴えるとは思ってもみなかった。私白身もRCCがこんなに債務者いじめをするなんて信じがたいものがある。
原口 国会でも一時「RCC送りという言葉はやめよう」と再生案件を増やそうと論議したんです。RCC本来の目的を果たそうと。それで変わらなければならなかったのに、実際にはひどくなっているとの声が多い。
佐々木
 RCCは公共機関。見直そうと方向を修正してもだめ。いったい、RCCとは何なのだろう。公共機関である存在意義が失われつつある。
椎名 特に、国民をここまで苦しめているのですから。国会で、金融の論議をしているなか「死刑」などという言葉が出ること自体がおかしいです。国策会社として、あってはならないことです。
原口 私の仲間で、ともにRCCを追及してきた上田清司さん。今は埼玉県知事ですが、財務金融委員会の私より前の筆頭理事なんです。知事になると、2000債円を用意して、RCC送り、あるいはそうなりそうな会社に対して、埼玉県独自の視点、基準で融資をはじめました。リレーションシップバンキング、いわゆるつなぎ資金の援助です。その効果がテキメンに上がっており、埼玉県は県別GDP(国内総生産)の伸びは5.9%と国内トップクラスになった。
佐々木 国政の政策の失敗を地方に助けてもらっている。小泉政権もRCCも、他の金融政策にかかわる人間も、そのことをよく認識し、是正しなければいけない。
椎名 原口先生の話からよくわかるのは、カギは中小零細企業ということ。そこが元気になり、活性化すれば日本の景気も変わる。つまり良くなる。そのことを埼玉県は実証しているということですね。
佐々木 しかし、小泉政権の基本方針では、不良債権処理が進めば構造改革が進んだという形です。それが何を意味するのかと言えば、強いところはますます強く、弱いところは消えてなくなれということです。それでは被害、痛みを受ける人は増えるばかり。それを改革と称していること自体が根本的な間違いです。
原口 表向きの不良債権が消えればいい、先のことは、また問題が顕著になれば対処すればいいと。昔、山一燈券が潰れたときに問題になった、損失の付け替え、いわゆる飛ばしを国家が推し進めている。バランスシートから不良債権が消えたらいいと、短期的な政策です。その後、どうなるかまったく考えていない。

■人を見ずに数字を追う姿勢がより多くの犠牲者を生む


椎名 RCCの取り立てで、その一番の被害にあっているのが、連帯保証人。もう債務者はダメだからと、連帯保証人へ矛先が向かう。
佐々木 本来、健全な家計で生活している方々が突然、すごい負債の返済を要求されることになるんです。
原口 小泉政権になって5年間で、国民は預金を200万円切り崩しているというデータを日本銀行から聞きました。実質、預金を持たない世帯が国民全体の22%もあるのです。 100軒の家があるとすれば、そのうちの22軒は貯金がない。あっても当面の生活費だけでまったく余裕がない。不慮の事故などの支出に国はどうファイナンスするのか。それを裏で支えているのが消費者金融。
椎名 最高29.2%の貸出金利です。ますます、破滅に連んでいくことを余儀なくされますね。国の政策が、実は消費者金融を支えているんじやないか。
原口 ギリギリでやってる人に、ご利用は計画的になんて叫んでも、計画できっこないです。
佐々木 やはり、いわゆる庶民をそこまで追い詰めた政策の失敗に挙げられるのが、中小の金融機関を犠牲にしたこと。地域密着型の金融機関は、数字だけで判断できない経営能力、将来の展望、人柄まで審査して融資し、中小零細企業を育て、金融機関自身も繁栄してきた。それがある意味、日本の繁栄を底辺で支えてきたのです。しかし、小泉政権では大手銀行並みに自己資本比率などの数字を求めた結果、バタバタと潰れるしかなかった。日本の金融機能を弱体させると同時に、国民全体が被害者になった。大手銀行と地域密着型の金融機関では性格が違う。いまからでも遅くないから、いや遅いかもしれないが、性格の違いをはっきり認めて、基準の設定を変えなきやならない。
原口 数字と人間、どちらを重視しなきやならないかといえば、それは人間に決まっている。
司会 数字で見ると、見かけだけは何とかきれいにおさまる。しかし、見えないところで多くの人が血を流し、下手すれば人生の終焉を迎えている。椎名先生はそれを直視されてきたのですが。
椎名 やみくもに貸しはがしをするのではなく、政府や金融機関が支払える環境づくりをすれば、まだまだ助かる人はたくさんいます。当初、RCCはいわゆる旧任専の巨額の債務者をやっつける、と拍手喝采でした。しかし、その旧任専の債務者とまったく同じ手法で、ごく普通の国民のところにRCC送りの魔の手
が忍び寄るかもしれない、という恐怖が、次第に国民に浸透しつつあります。
佐々木 RCCでも旧任専の悪徳債務者とまじめな中小業者とは違うんだとはっきりさせるのが血も涙もある回収の第一歩。それがまったく同じやり方で回収をはかる。何百億円、何千億円と債務があった人と自分で借金していない、保証人になっただけの人も同じ。RCCができて10年くらいになるが、ますます、庶民が犠牲になる構造です。
原口 椎名先生は被害者と向き合われることが多いと思いますが、去年、消費者基本法を作りました。消費者一人ひとりの権利を保証することが政治。保護じゃない。しかし、RCCは権利を踏みにじっていないだろうか。保証しなければいけないものを国策会社が踏みにじる。それがRCCの政策目的なのか、そこが大切です。
佐々木 政策目的がなければ、存在意義はない。
椎名 まず、やはり情報の開示が大切です。何度も言いましたが、債務者はその債権をRCCがいくらで買ったのか、それすら知らされていない。なぜ、金融機関にあった債務がRCC送りになったのかも、理解できていない債務者が多いんです。
佐々木 だが、小泉政権はそんな末端の声に耳を貸そうとはしません。小泉イズムだか、竹中イズムだか知りませんが、一番の原理は市場主義で、市場で淘汰されるものは、淘汰される。強いものが生き残ればいい、弱肉強食の世界で弱いものは生きていけないのです。政治とは、そんななかで底辺の人がどうすれば生きていけるかという社会を作らなきやいけません。
司会 小泉さんもそうですが、小泉政権になってからは日本の金融は竹中さんを中心に動いていると、国民はそう見ている。そうなれば、何でもそこのけで強引に推し進める小泉一竹中ラインでRCCでも郵政でも何でも突っ走りそうな危惧がありますが、いかがですか?
原口 まず言いたいのが竹中さんはあまりに無責任であること。何を諮問しているかもわからない、経済諮問会議で具体的に責任を突きつけ、担当大臣としての意見を聞こうとする。それでも『それ、私の仕事でしたっけ?』と逃げるばかりです。
佐々木 中小零細企業や地域密着型の金融機関が潰れた責任を問うても、直接は関係ないと言うばかりです。郵政の行方はまだ、この座談会時点ではわかりませんが、竹中さんは自分に悪い局面になれば「私が郵政のことやってましたか」って言うでしょうね。
椎名 そんないい加減な大臣や政策に国民が犠牲を強いられています。私たち弁護士もRCCで数多く仕事をしています。私の友人はこっそりと「RCCがやっていることと理念と全然違う」と打ち明けました。しかし、政策上、その理念を押し通さなければ仕方ない現状のようですね、先生方のお話からしましたら。その犠牲者が国民。
原口 もうRCCを潰してしまおうという話だってあるんですよ。
佐々木 潰すのはそう難しくない。
原口 しかし、RCCで起きたことにフタをすることになってしまう。国民の前にさらして、何かダメだったのか論議して、新しいものを作り出していかなきやいけない。

■政治の崩壊がこのまま進めば権力化に拍車がかかる

佐々木 何度も言いますが、RCCは公共機関。民間と同じことやるなら、それこそ民間にまかせておけばいい。なぜ、公共機関なのか、公共性が求められるのかが問われている。国民に主眼を置くべきなのに、いわゆる権力、政権に目が向いている。
椎名 アメリカなど外資のサービサー(債権回収会社)もRCCの手口をまねて、きびしい取り立てに拍車がかかっています。
佐々木 最後のよりどころが政治です。いまはそれが崩れていますが、反対にそれが当たり前と思われるような、恐ろしい社会になっています。
原口 天下りと談合の山になっている道路公団。郵政民営化も犬切な国民の権利が奪われようとしています。RCCには郵政や道路公団にはない司法権力もある。郵政や道路公団以上の権力化、肥大化の危惧が現実のものとなりつつある。
司会 そうならないように、皆様の奮闘を期待しております。本日はありがとうございました。