< ノンフィクション劇場「騙す」PARTUレポート>                                                 劇中「三菱銀行員」役   白井 一

 「はい、私共三菱銀行新宿新都心支店が一億三千万円の融資をしております。」と劇中の裁判所の場面で証言した私は、公演当日の二週間前の十二月四日の夕刻、中央大学駿河台記念会館で行われた公演準備説明会の席で山口みる氏から、劇中配役「三菱銀行マン」の就任の話を頂きました。稽古を含め忙しくも楽しい半月でした。以下リポートします。  
  被害者だと言って意気消沈せず、「騙す」PartUの幕開きと最後に朗読する被害者の姿は感動的です。練習舞台で各人の朗読がばらばらで、大丈夫かなと心配しましたが、「演歌のこぶしと同じで、ぎんこうが、サギの様に・・、と言葉の最初にアクセントを置いて発声すると良くなる」と言う、東京芸術座の滝沢ロコ氏の助言で見違える様になりました。
  「人生を返せ」、「いのちを返せ」という終幕間際の朗読には私も東京芸術座の俳優さんと一緒に加わりました。「奪ったのは誰だ」と大声を出した時は、機能しない日本の法曹界の実態がまざまざと思い出し、経験者にしか分らないこの不毛な裁判制度を機能させるには、被害者自身が諦めず「裁くのは誰だ」、「私たちの人生」、「私たちの権利」、「人生を返せ」、「いのちをかえせ」と声を上げて行動する以外ないという実感を改めて覚えた瞬間です。朗読した「奪ったのは誰だ」、「裁くのは誰だ」に始まり、「人生を返せ」、「いのちをかえせ」で終わる、山口みる氏の詩の一説が今でも耳に残ります。

息子の独白が現実の裁判制度
 「騙す」PartUは「父は死にました。自殺です。必死で働いて、働いて、そのあげくです。父の人生ってなんだったのだろう。ごく平凡に生きてきた人間の、これが最後なんだろうかって思うと、たまらなくなりました。」で始まる変額保険の銀行被害者の息子のプロローグで物語が終わります。感動的な場面であると同時に、民事裁判の本質的な説明がその後続きます。息子の台詞は「裁判って、ボクシングと似ていて、被告側と原告側がパンチの応酬をする。それを裁判官がジャッジする。今の裁判ってプロのボクサーと素人が戦っているようなものです。」と続きます。一般の多くの国民が、「騙す」PartUが紹介する事実を知って民事訴訟や裁判の仕組みを正しく理解することが、この様な問題を起こさない解決策の一つだと思いました。「民事裁判は真実を裁く場でなく、自己の正当性を証明する努力の量を裁く場」だという事実を劇中でこの変額保険被害者の息子は控えめに語っておりましたが、私にはここが重要なポイントだと思います。  

裁くための法律整備が急務
 日本では年間四万人に及ぶ自殺者が有り、その中に相当数の金融トラブル被害者が含まれているはずです。当日第二部の「金融取引紛争解決機構立法化のために」にご参加いただいた、海江田万里先生、河村たかし先生、佐々木憲昭先生には、一日でも早い銀行金融被害に関わる「金融取引紛争解決機構」の立法化の百万人の熱い思いが当夜お伝え出来たのではないかと思っております。

おわりに
椎名先生を囲み「銀行の貸し手責任を問う会」の運営を支える多くのサポーターの方が「騙す」PartUを成功させました。会場でTBSの取材に応じた金融被害者のご家族が、「銀行の不正融資を紹介した今夜のこの様な催しに沢山の方が参加し、銀行のやり方を理解する機会があった事実に若干明るい希望を感じます。」と述べられました。同感です。この種の被害を少なくする為には「騙す」PartUのビデオを万人が見て、今日の裁判制度の実情を理解する事から始める必要があるのではないでしょうか。最後に関係者に改めて感謝いたします。