金融サービサー(RCC、債権回収会社)の強引な取り立ても酷く、目に余りますが、最近の銀行の取り立てもこれに劣りません。銀行が融資先の顧客に対し、裁判所へ破産申請し、身ぐるみはぎ取るというあこぎな強攻策に出てきています。銀行の貸し手責任を放棄した典型的な取り立て行為ですが、下記に紹介する朝日記事に掲載された実例は見落とせません。
■朝日新聞「経済」欄2005.04.27
 銀行、個人の破産申請 「身ぐるみはぐ」の声も


 銀行が、融資した個人客の破産を裁判所に申し立てる事例が出てきた。経営不振企業の不良債権問題は峠を越しつつあるが、一方で銀行は返済が滞った債権を回収するため、個人の借り手に対しても異例の法的手段に訴えて最終処理を厳しく迫る動きを強めている。(編集委員・山田厚史)
 「相続税対策にと、あれこれ勧めながら、破産に追い込むとは」

 奈良市に住む酒井三雄さん(62)は、3月中旬、大阪地裁で破産を言い渡された。契約能力を失い、経営していた労務管理会社は解散。銀行口座は押さえられ、年金も手に入らない。自宅は競売され、1LDKの部屋を借りて妻と暮らす。

 新大阪駅前に土地を持つ資産家だった。87年に東洋信託銀行(現在はUFJ信託銀行)の行員が来て「相続税だけで9億円はかかりますよ」と対策を勧めた。老母の名義で借金すれば節税になると言われ、3年間で計14億円の融資を受けた。

 バブルが崩壊した後も、毎月250万円を返していたが、「10億円の一括返済」を迫られ、「約束が違う」と断った。担保のビルや駐車場、自宅は競売され、それでも、UFJ信託は「遅延金や金利など9億円の債権が残っている」として破産を申請した。

 ●厳格取り立て

 山梨県の田辺儀雄さん(69)はみずほ銀行から破産を申し立てられ、甲府地裁都留支部で審理中だ。4年前に亡くなった義父の借金が原因だ。

 仕立職人として東京・赤坂に店を開いていた義父が引退して店を売るとまとまった金が入り、富士銀行(現在はみずほ銀行)南青山支店の行員が来た。相続税対策のため、借金してワンルームマンションや事務所ビルを建てれば、賃料で利息を返せると勧められ、5億円を借りた。一人娘だった妻の光代さん(62)が連帯保証した。

 バブル崩壊で目算が狂った。賃料では利払いが出来ず、担保のビルは競売にかけられた。3億8千万円で買った新潟のビルの落札額は2600万円。手持ちの不動産を売り計4億1千万円を返したが、銀行は「3億4千万円の残金がある」と主張する。最初の10年間は利息の支払いだけで、元金は減っていなかった。

 破産申請の理由について、UFJ信託もみずほ銀行も「個別案件については申し上げられない」というが、債権回収に詳しい金融関係者は「破産で財産を洗い出せば回収できそうな資産が見つかると考えたのだろう」とみている。

 ●「以前は節度」

 「かつて銀行には、自宅を競売にかけるようなことは恥ずかしいこと、という節度があった」と旧第一勧銀OBの経営コンサルタント宮本孝さんは指摘する。担保を処理して回収しなければならない時は、お客を説得して売却に持ち込むのが常識だったという。いまや強制競売は日常の風景となり、その延長上に破産申請が始まった。

 25日の衆院決算委員会で、前田雄吉議員(民主)が、この二つのケースを取り上げ、「身ぐるみをはぐもので、破産の乱用だ」と政府に調査と是正を要求。伊藤金融相は「銀行は債務者の置かれている状況や実情を把握し、適切な対応を行うことが重要だ」と答えた。金融庁の調べでは、銀行が個人に対して行った破産申請は、03年は3件、04年は11件だった。

朝日新聞社