「デイリータイムズ」連載・糾弾レポート<第8弾>
伏魔殿 整理回収機構(RCC)の正体
「罪と罰」を問う

ジャーナリスト・今西憲之
国会の衆院予算委員会で追及されたRCCによる
債権回収の罪悪
【2005年5月号】債権回収のためにRCC。「濡れ手に粟」状態の債権取り立ての構図は国家でも民主党の中津川博郷代議士が舌鋒鋭く、暴走集団RCCの罪悪を追及している。一体いつになったら、この不当集団の終末は来るのか!?
1000円の債権購入で取り立てに

デイリータイムズ2005年5月号

 1995年といえば、住宅専門金融機関、住専問題が注目を浴びた。住専から次々と巨額の融資を引き出し「借金王」と呼ばれる大口債務者に非難が集まり、住専のトップには「貸し手責任」が厳しく追及されていた時代だった。

 ナニワの借金王と呼ばれた、末野謙一氏は高級マンションのワンフロアすべてを愛人の住まいとしてあてがい、自分のマンションのガレージには日本に数台しかないという、高級外車が並んでいた。
 そんな様子が報道され、ますます国民からは非難の声があがった。96年、国会で6850億円もの税金を投入し、住専を処理する法案が可決された。
 預金保険機構が株主となって、「住宅金融債権管理機構(現在の整理回収機構・以下RCC)」を設立。その初代社長としてすい星のごとく登場したのが、中坊公平だ。
 あれから10年――。
 RCCは住専だけでなく、破綻金融機関の債権回収も手掛けるようになり、不良債権回収の公的機関としての投割と権限を強大化し、その使命はますます重要となっている。
 6850億円もの国民の税金を投入した「不良債権処理」は、一体どうなっているのか。
 今年2月16日の衆議院予算委員会。その現状をただそうと、質問に立ったのは、民主党の衆院議員中津川博郷。
 <1000円なんですよ。私びっくりしたのですけども、皆さん、1000円、1000円で金融機関から買い取っているのですね。 1000円ですよ、1000円。びっくりしましたね。これを楯に取り立てを行なっている>
 と驚きの声をあげた。
 平成14年1月11日付けで、預金保険機構とRCCが連名でく金融再生法第53条に基づく健全金融機関等からの資産買取価格について>という文書がある。その中の<1債務者に原則一律1000円を付す>が1000円の根拠である。
 破綻した金融機関は、一定額の税金を投入して、処理される。そこで発生するのが、融資金額に見合わない、不動産、債務者や保証人からも返済が見込まれず、担保となっている不動産の処分も難しい場合がある。また、担保をとっていない融資で回収が困難なものもある。そのような、回収が見込めない債権は「ゼロの債権」とRCCは呼ぶ。破綻金融機関からRCCはそんな債権を買っているのである。
 その時の買い取り価格がなんと1000円というのである。
 数千万円、数億円という債権、つまり回収できる権利があるものを、RCCはたしているというのである。
 1000円で購入した権利で、相手に数百万円、数千万円を請求できるのである。
 中津川は「ゼロの債権」について、<全部で何件あって、譲り受け債権全体のうち、これは何%を占めているのか。(中略)1000円債権からの回収額の合計幾らで、平均回収額は幾らなのか。買い取り額に対する回収率についても答えてもらいたい。買い取り価格の上位20社についても公表してください> と質問した。
 答弁に立った、金融庁監督局長の佐藤隆文は、<昨年9月までの累計でございますけれども(中略)6342件でございます。これは譲り受け債権全体に占める割合は50.8%。(中略)回収総額は112億円。(中略)一債務者当たり640万円の回収額ということになります>
 たった1000円で買った債権が640万円に化けているのである。たくさんの弁護に時給2万円を支払い、社員に都市銀行に遜色ない給料を払っても十分にやっていけるわけだ。
 中坊が、RCC顧問を辞任、弁護士廃業宣言をするきっかけとなった、大阪府堺市の朝日住建が所有する土地をめぐるRCCの詐欺的回収事件。RCCは、優先的に回収できる抵当権者に本当の売買金額を伝えず、相手を騙して自己の回収金額を増やした。
 その際、中坊は「社長直轄案件」と称した会議を現場の回収担当者や弁護士などを交えて、行なった。
 「ほほおう、たった1億円ほどで買った債権がこんなになるのか」
 とその席で中坊はこう述べたのだ。

 嘘ばかりのRCC債権回収の実態

 RCCは当初、20億円を超す債権回収をこの時、もくろんでいた。国会でのやりとりで、RCCの暴利をむさぼる構図が明らかにされたのである。
 中津川代議士は、その後もRCCの取り立ての姿勢についても厳しく追及。
 <1000円でやって大変な利益をあげている。そして庶民が苦しんで生き地獄、そして自殺を考える。あるいは死んでしまう人もいる。僕はRCCは本当におかしいと思う>
 RCCでは、経営理念として<人間の尊厳の確保>として<RCCの回収債権において「契約の拘束性の追求」に急なあまり、いやしくも、人間社会の絶対的な価値である「人間の尊厳」を損なうことがあってはなりません。RCCは、この点に十分尽くして業務にあたっております>と記されている。
 かつて、北海道ではRCCの強引な回収方法に抗議、戦おうというグループが弁護士を中心に結成されたことがある。
 「払うのか、払わないのか、あんたが借りてなかっても、保証人や、借金や。印ついたらあかんねん、逃げられへん」
 「払えんかったら、払わんでもええ。どうなるかなあ」
 私は実際にRCCの人間が、債務者で50歳過ぎの女性ににそう言い放った場面に遭遇したことがある。まさに、映画の一場面に登場するような、回収の現場だった。
 債務者の女性はぶるぶると震え、数日間、寝込んでしまった。とても「人間の尊厳」など担保されたような回収ではなかった。
 しかし、自社の人間については尊厳どころか、被害まで弁済するのだ。前号でも報じたが、RCCは昨年10月に福岡支店の元課長、鎮西治が業務上横領や詐欺容疑で逮捕、起訴された事件の初公判で、使用者責任があるとして、被害弁済することを認めている。もちろん、原資は税金だ。
 今年2月25日、福岡地裁久留米支部での論告求刑公判。被告人質問で弁護士に聞かれた鎮西は、起訴された事件以外でも、「不正をしていた」 と認めたのだ。
 「平成8年8月ごろ、ナカハラさんのことがはじめてで、回収した金を会社に持って帰ると、誰もいなかった。自分のサラ金返済のための入金にあてた」
 と証言した。RCCは昨年4月に鎮西から事情を聞くまで、ずっと気づいていなかったのである。
 その後、RCCは鎮西から過去の「悪事」の数々を聞き取り、時系列表にして捜査当局に提出。それをもとに捜査されたという。
 この日、検察側から鎮西に言い渡されたのは、懲役4年。鎮西の被害弁済がたった100万円しかなされていないにもかかわらずだ。
 「公的な会社、RCCをクビになったという社会的制裁と、RCCの被害弁済からの求刑ではないか」
 とある弁護士はこの求刑をこうみる。 実際に横領したのは約4000万円と言われ、起訴されたのは2700万円。おまけに被害者にはRCCが使用者責任で弁済するという。
 RCCは、国民負担を軽くするのではなく重くする一方である。  (敬称略)