「デイリータイムズ」連載・糾弾レポート<第7弾>
伏魔殿 整理回収機構(RCC)の正体
「罪と罰」を問う

ジャーナリスト・今西憲之
国民の税金を食い潰すRCCの相も変わらぬ企業体質
【2005年4月号】 元来、国民に還元されなければならない回収金を、危機管理のまずさから社員に勝手放題に使われていた。これでは、NHKの不祥事と何ら変わ引よない。いやRCCの存在そのものが犯罪の手口にされていたわけだから、もっと始末に悪い。RCCとは一体何なのか、改めて問わざるを得ない。
RCCを舞台にした犯罪

 グレーのYシャツに黒い革のジャケットをはおり、証言台の前に立った男。白髪まじりの頭髪から、かなりの心労の様子が感じられる。
 「その通りです」
 ぼそっと小声で、男は裁判長に向か
いつぶやいた。

 1月21日、福岡地裁久留米支部で回かれた法廷。整理回収機構(RCC)の元課長で、昨年11月に横領容疑で逮捕された鎮西治被告(46)の初公判だった。
 昨年春に、横領の疑いがあることが判明し解雇され、刑事告発されていた鎮西被告。昨年11月に逮捕後、約3000万円の業務上横領や詐欺で3度、起訴されていた。
 そして、女性の検察官が、2度の起訴分の冒頭陳述を読み上げると、とうていRCCの人間とは信じがたい犯行の全容が明らかになった。
 鎮西被告は、長崎県出身。旧住専の第一住宅に就職。その後、旧住専の破綻にともなって、RCCの福岡支店に入社。管理部門で、回収業務にあたっていた。
 平成2年ごろから、ポーカーゲームなどのゲーム機にのめり込み、1200万円と多額の借金を背負った鎮西被告。一度は、家族などの援助もあり完済するが、平成6年ごろから再び、ポーカーゲームに手を出し、風俗店にも出入りをはじめ、平成8年には消費者金融への返済額が月に20万円にのぼっていたという。
 その借金が平成12年ごろには2500万円となっていた。鎮西被告は、なんとRCCで担当する債務者から借金して、しのいだ時期もあった。しかし、返済額は月47万円にふくれあがった。
 「RCCの債務者に架空の投資話を持ち出したてみたり、RCCの返済を繰り上げるように要求して、自分のポケットに入れたりするような手口」(鎮西被告の弁護士)
 それらが、発覚したのが今回の事件だというのだ。
 最初は、RCCの債務者で福岡県の会社経営者に架空の投資話を持ち込んだ。そこで、2000万円近い現金を手にした。しかし、次第に返済を求められ、今度は別のRCCの債務者に、繰り上げ返済を要求。2700万円を手にした。
 うち800万円ほどを会社経営者に渡し、残りは自分の会社の机の引き出しや自宅に入れて、使ってしまったというのだ。そして、また返済を求められたために、別の債務者に「期限前の償還」と言葉巧みにだまして、返済させたという。しかし、それも一部を債務者に渡しただけで、会社にも渡さず自分で使ってしまったという。
 昨年8月、鎮西被告が借金返済に応じなかったことで、会社経営者がRCCを被告に福岡地裁へ民事訴訟を起こした。
 「RCCが取り扱っている物件は(中略)損をすることはない」とRCCの「威光」をちらつかせて、投資話の端緒をつくり出し「いい物件についてはすごく競争になる」と煽る。続けて「誰に売却するかは社内で決定することになるが、手付を多く入れてもらった人の方が有利になるのでもう少し入れてもらった方がいい」
などと言葉巧みに、金を出させた様子が冒頭陳述には記されている。
 そして、鎮西被告は実際に「売買手付金」「購入申込金」などという名目で、金を受け取った。おまけに、RCCの社印が押印された「代位弁済受領書」「申込金受領書」までをも交付。会社経営者は「契約が成立している」と信じ込んでいたという。
 鎮西被告が会社経営者から借金をはじめたのが、平成9年のこと。ところが「会社社長がRCCに訴えるまで、全然知らなかったようですパ鎮西被告の弁護士)。昨年春まで、まったくRCCは鎮西被告の「犯罪」に気がついていなかったというのだ。もし、訴えがなければ、鎮西被告の「犯罪」は現在も継続、被害者が増えていた可能性もあるのだ。おまけに「昨年4月、鎮西被告は大阪支店にいわば、栄転する形で異動になっている。それが、事件がばれて、クビになった」とRCCの関係者は言う。

 NHKの不祥事を超える犯罪

 犯罪を犯した人間を、出世させていたのである。
 これは、中坊公平元社長が、一昨年東京地検に起訴猶予とされた、大阪府堺市の土地をめぐる「詐欺的回収」の時とまったくかわっていない。
 土地の契約が終了後、回収交渉を担当した社員の一人は、大阪支店で出世。回収交渉の小身の詳細を知り、被害会社の2社に謝罪に行った役員も、出世している。
 「詐欺的回収」の謝罪をした時、「コンプライアンスの充実させる]という説明をしたRCC。
 にもかかわらず、今回も同じことを繰り返していたわけだ。遵法より、まず社会通念、常識というものを理解しなければならないのではないか。
 おまけに、検察側は鎮西被告の法廷で「RCCは鎮西被告の使用者責任があるとして、被害者の弁済に応じる予定」とまで述べた。
 RCCが、鎮西被告の被害者に対して認めた使用者責任。この弁済する金の原資は、どかこらのものなのか。
 答えは「税金」である。
 国民の税金を投入して、会社を設立したRCC。本来なら、RCCが回収したものは、国民に還元されなければならない税金。それが、RCCの監督不十分で生じた犯罪に対して、国民に新たな損失を与えるものである。これではNHKの不祥事とまったく同じではないか。いや、さらに被害者を生むRCCの体質は、それ以上のものだ。
 「このご時世ですから、回収は大変。足を棒のようにして歩き回り、頭を下げて、数万円でもと交渉しています」と現役のRCC社員は話す。
 詐欺的回収を指示した、中坊元社長は「国民に二次負担をかけない」と繰り返し述べたのは、今も記憶に新しい話である。
 「犯行を重ね、精神的にどうにもならず、酒やばくちに手を出して、ますます深みにはまった。反省していますが、被害弁済もできておらず、実刑判決は覚悟しています」と鎮西被告の弁護士は心情を代弁する。確かに、鎮西被告の責任は多大だ。
 しかし、RCCがもっと危機管理に対応しておれば、わずかな被害で終わった可能性もあったはず。前出の現役社員たちの、現場の奮闘もそんな危機感のなさで、あっという間に消え失せてしまうのだ。
 「もうRCCは潰せ、いらないという話があります。内部で問題があり、早くばれないうちに、つぶしてほしいという話も問きます。もう存在価値はなくなっている」とRCCを鋭く追及したある国会議員はこう話す。
 実にお粗末な、この事件。RCCの未来を暗示しているようである。