「デイリータイムズ」連載・糾弾レポート<第2弾>
伏魔殿 整理回収機構(RCC)の正体
「罪と罰」を問う

ジャーナリスト・今西憲之
悪質な「貸し剥がし」の実態
―金融庁の行政指導を無視したRCCのヤリクチ―
【2004年10月号】 「情け」とは、人と人との潤滑油である。あの冷厳な裁判所でも情状酌量がある。ところが、「情け」ゼロの「役所」がある。 RCC (株式会社整理回収機構)だ。あるのは「十把ひと絡げ」「杓子定規」と血も涙もない取立てだけ。国家権力をバックに、債務不履行が一度もないのに一括弁済を迫るという、その横暴さを検証する。(本誌編集部)
連帯保証人を破産させたRCC
 「借りたのは平成2年9月。翌10月から現在まで毎月約定弁済を遅滞なく履行しているのに、RCCは新規連帯保証人や
担保の増額、さらに一括返済を執拗に請求してきまして……当社の現況並びに現経済状況下において、履行不可能であることが客観的に明白なことなんです。
 それを敢えて要求してくるのは、当社に無理難題を押し付けて、貸付金を無理矢理回収しようという典型的な『貸し剥がし』以外の何ものでもありません。これが経済建て直しが目的の『国策会社』のすることですか。町のヤミ金融と同じですよ」
 怒るのは、岐阜県内に本社がある健康食品の総代理店A社のC社長。披ははさらに怒っていう。
 「RCCの取りたてをみていると、健全な企業を取り潰してまで、正常債権を不良債権に劣化したように装い、これを回収しょうとしているように思えて仕方ない。それも強力な国家権力をバックに正当化して……RCCの設立目的はなんだったんです]
 A社とRCC=東京都中央区本町2、奥野善彦社長=は現在、大阪地裁で係争中だ。平成15年2月20日、RCCがA社に対して貸金返還請求訴訟を起こした。
 関係者によると、事の始まりは平成2年9月12日、A社が土地購入資金に東京の総合性金(株)から1借円を借り入れたこと。利率年9.5%。最終弁済期限平成32年9月12日。当時のA社の社長K氏が連帯保証した。毎月の弁済は平成2年10月12日から12日を弁済目として始まっている。平成15年2月28日現在、残元金6281万1315 円。
 RCCの登場は平成8年10月1日。総合仕合が倒産、同社の清算人からこの日、債権がRCCの前身・(株)住宅金融債権管理機構に譲渡された。
 風雲急の前触れは、平成13年9月たった。同債権の連帯保証人で当時の社長K氏がRCCの申し立てで破産宣告を受けたのだ。平成14年6月28日、RCCはK氏に代わる新連帯保証人を要求。A社はC現社長でと返事。RCCは69歳のC社長が年収1500万円以上あるにもかかわらず高齢、他に保証債務がある、と拒否。A社は現取締役営業本部長で、と再回答。RCCは、相応の資力、経済的信用カなどを備えていないと、これも拒否。
 「そして、平成14年10月22日、RCCは連帯保証人が破産したので、金銭消費貸借契約上において期限の利益喪失、1週間以内の一括弁済を請求してきました。もちろん、なければ法的手段、と書き添えてありました」(C社長)
 平成14年12月27日、RCCはA社に約定返済金の自動引き落としの停止を通知。翌15年1月12日、A社は自動引き落としを禁止されたので、RCC代理弁護士宛てに約定弁済金額を現金書留郵便で送るが、弁護士受け取りを拒絶。1月17日RCCの鬼追社長(当時)宛てに送りなおし、1月分の支払完了。平成15年2月12日、RCCは、A社に一括弁済のための指定振り込み口座を通知。
 まさに息もつかせぬこれかこれかといわんばかりの取立て! 冒頭のC社長の怒りはこの時のものである。もちろん、RCCは反論する。
 債務者が約定返済を継続していたとしても、そのことをもって債権保全を必要とする相当の理由が生じていないとはいえない。債権保全が必要か否かは、債務者の事情によってだけで判断されるものでなく、担保などすべての事情を元に判断されるべきである。本件は保証人が破産宣告を受けたことにより、資力を有
する保証人が不在になったこと、物的担保の価値が下落し、債権額と比して十分でなくなったことにより、実質的に本債権を担保するものは不十分となった。
 RCCは、A社との間の約定に基づき、A社に対し一括請求をしているにすぎない。そのことに対し、権利の乱用だとの主張は、契約自由の原則を否定するものてあり、到底認められない」(RCC代理人、正木丈雄弁護士・岸本寛成弁護士)
 金融庁では、「再起の可能性のある債務者をやみくもに法的整理に持ち込むのはいかがなものか」という行政指導を行っているのだが、RCCの暴走は止まることがないようだ。

 「国策会社」をカサに荒々しい回収を続けるRCC


《「泉北ホテル」を舞台に犯罪的回収を強行したRCCの汚い手口。今回は、“国策会社"
をチラつかせ土地保有税句猶予を狙うという荒業。底なしのRCCの犯罪的行為は、
一体どこまで広がっていくのか。傍若無人のRCCを糾す。》


 前号では、整理回収機構(以下RCC)の手法を「犯罪」であるとのべた。「泉北ホテル」を舞台とした、RCCの回収。これを東京地検が「起訴猶予」とし「犯罪」の外形的事実が成立した舞台裏を書いた。
 「起訴猶予」となったのは、前号でもお知らせしか「43億円」という本当の売買金額を「33億円」と明治生命と横浜銀行に嘘の金額を伝えて、RCCが有利に回収しようとした行為である。
 だが、それにたどりつくまでにもRCCは、東京地検が「起訴猶予」と下した一件とは遜色ない「犯罪」とも思える回収交渉を企てていたのである。
 「泉北ホテルの交渉でRCCがやった汚い手口は、いくつもある」
 回収交渉に関係した、関係者は吐き捨てるように振り返るほどだ。今回から「汚い手口」を具体的に検証してみる。
 平成9年9月18目、RCCは債務者の朝日住建との交渉のテーブルについていた。私が人手した朝日住建の会議録には、
<スキームはRCCが確定する>
 と記されている。
「明治生命と横浜銀行を無視して、ようそんなこと決めるな」
 朝日住建の担当者は、そんな思いを抱いたことを記憶している。
 しかし、RCCと言えば当時は、社長の中坊公平を先頭に「正義の味方」と世論から絶大な支持を得ていた「国策会社長朝日住建の担当者の思いは、関係なかった 平成9年11月「泉北ホテル」の土地売却を想定したときに作成された文書。RCCの傲慢さを象徴するものである。
 <泉北三原ホテル用地処理に対する往管の方針>という文書を朝日住建に示して<住管機構に対する返済金は20憶円以上>と、返済金額を一方的に決めてしまったのである。
 「そのころ、泉北ホテルに関する具体的な相談はまったく受けていなかった」
 とRCCより上位の抵当権を設定していた明治生命と横浜銀行の関係者は、そう口を揃える。
 次真の図に示す通り、泉北ホテルの用地は土地Aと土地Bに登記上は分かれていた。土地Aは明治生命と横浜銀行が第1位抵当権者で、それぞれ25憶円ずつ、合計50憶円を朝日住建に融資していた。RCCは第2往だった。土地Bの抵当権は、RCCが第1性で、明治生命と横浜銀行は抵当権の設定はなかった。
 だが、土地の面積比から見れば土地Aが全体の約9割を占める。土地Bはガケで細長い形状。土地Aがなければ、不動産価値は極めて低いというのは、素人目にもわかる。
 抵当権設定状況からみた一般論で言えば、土地Aと上地Bを一括して売買した場合、明治生命と横浜銀行は50憶円を優先的に回収できる権利がある。その残りがRCCの回収となるのだ。50億円以上で売買できなければ、RCCは一銭も取り分がないことも考えられるのだ。
 その頃、世論はRCCに追い風たった。
それをRCCは巧みに利用し、明治生命と横浜銀行を抑え込もうとした。泉北ホテルに設定されていた大阪府との「特約」の問題だ。
 泉北ホテルは、大阪府企業局が問発し、朝日住建がそれを購入した際に「特約」が交わされた。
 その中に、平成10年3月末までにホテルを建設すること。できない場合、元の更地にして大阪府に戻すという内容が含まれていたのである。
 売却交渉が本格化した時点で特約の期限満了まで1年を切っていた。朝日住建は資金がなく、とてもホテルを建設できる体力はなかった。早く、処分しないと不動産価値がなくなってしまう。
 RCCより上位の抵当権者である明治生命と横浜銀行も過去、泉北ホテルの処分を検討していた。しかし「特約」の壁に頓挫するばかりだった。そこで、RCCは大阪府に「親書」を送付した。特約の変更が可能かという中身で、わかりやすく言えば、用途外使用、ホテル以外の建設は認められるのかと問うた。
 もちろん、大阪府の答えは表向きNOだった。しかし、相手はRCCである。条件を満たせば、用途外使用を認めることもあるとしたのである。
 中坊の印鑑をついてRCCが大阪府に送った親書のコピーを私は入手した。RCCは自らを「国策会社」と表現し、大阪府からの返答にも「国策会社」とする記述がある。
 日本で指折りの生保と、トップクラスの地銀がどう頑張っても解決できなかった用途の変更を、「親書」一通で認めさせたRCC。その絶大なるパワーをバックに、「うちが、大阪府と交渉して用途外使用を認めさせたんや」 と言う。
 以降、RCCは決まって、明治生命と横浜銀行にそう啖呵を切って、傲慢に交渉を進めたのであった。
 その一例が、税金を名目にしたRCCの嘘である。
 朝日住建は、堺市から泉北ホテルに対して特別土地縁有税が課税されていた。交渉していた時点で6億円から7億円の金額が想定されていた。
 泉北ホテルを売却した場合、特別土地保有税の支払い義務が生じる。当初、課税された場合、売買金額から支払うなどの案も検討された。しかし、朝日住建は過去にさまざまな不動産取引、開発をしてきた豊富な経験や堺市との長年に付き合いから、売却した場合でも、朝日住建との共同事業とすれば、特別土地保有税が猶予され、すぐの課税・支払いに迫られることはなかった。
 RCCも、堺市と交渉しそれを確認。朝日住建は、「万が一、特別土地保有税が課税された場合、朝日住建で責任を持つ」
 という約束をし、RCCは何度もそれを確認したことが会議録に残っている。
 つまり、特別土地保有税に関して、RCCは何のリスクも背負わない状態だった。
だがRCCは明治生命と横浜銀行との交渉のテーブルについた時、「売買代金から特別土地保有税を支払うこともあり得る」
 と説明したのである。
 なぜ、売買代金から特別土地保有税を負担しなければならないのか、明治生命・横浜銀行との交渉は紛糾した。平成9年11月から平成10年1月にかけての交渉だった。
 そして、RCCはこう主張した。
 「RCCが堺市と交渉すれば、特別土地保有税は猶予されることもある」
 大阪府との交渉で見せつけられたパワーに、明治生命と横浜銀行は黙るしかない。そしてこう付け加えることも忘れなかった。
 「RCCと堺市が交渉した結果、特別土地保有税が猶予された場合、その金額をRCCが回収にあてる」
 最初から課税されない税金。それを「課税される」と、明治生命と横浜銀行に誤信させる。我々が交渉すれば猶予されると、アメを目の前にぶら下げる。そして、課税されなければうちがもらうという塩梅だ。
 まったくリスクがない税金をダシにして、RCCはこんな交渉をやっていたのである。
 これが国策会社の「本性」だったのだ。