◎銀行の貸し手責任を問う会事務局長・椎名麻紗枝弁護士のコメント紹介記事

■日刊ゲンダイ2005.06.13付1〜2面
大手銀の不良債権半減したいうけれど…
それでもまだ景気の先行きは暗いと専門筋
《特に地方銀は不良債権を莫大に抱え地方経済は回復どころかドンドン悪化している中、このまま小泉無能内閣が続いたら景気の回復などあるはずなし》

 「全国的には曇りがほとんどで、北海道、北陸、四国は曇り一部雨。晴れ間が見えているのは沖縄だけ」
 天気予報ではない。全国地方銀行協会会長・瀬谷俊雄氏がインタビューに答えた地方景気の現状である。企業は地方から海外に工場を移すから失業者が増え、地場産業は安い中国製品に押されっぱなし。不況を元に戻す復元力がなく、地銀も地方経済も見通しは暗いというのだ。
 これって小泉内閣の経済見通しとは随分と違うじゃないか。
 政府発表の05年1−3月期実質成長率は前期比I・3%増(年率換算5・3%増)と景気回復をさかんにPR。上場企業の05年3月期決算も3年連続の増収増益を達成し、7大銀行グループも不良債権残高半減の好決算だったから、マスコミも「バプル後の低迷脱却」「日本企業がよみがえった」と解説している。

大手行の「不良債権半減」のカラクリ

 

 しかし、これは数字上の話だ。例えば大手銀行の不良債権比率が金融庁の目標だった4%を下回る2・9%になったのは、政府があの手この手を使って助けたご国策操作の結果である。
 金融事情通が言う。
 「政府は、問題企業を産業再生機構に送り込んだり、本来は中小企業向けだった産業再生法を中堅企業に適用して不良債権外しに協力してきました。なぜか。第一に政府は『不良債権を05年に半減』を揚げてUFJと三菱東京FGを合併させる荒療治までやってきたのに目標が達成できなければ責任問題になる。さらに郵政民営化でできる巨大な郵貯銀行が民業圧迫と批判されないためには『銀行は健全化した』という形が必要だったからです」
 大銀行を救う不良債権処理でもシワ寄せは庶民に回っている。いい例が整理回収機構(RCC)に回された不良債権処理だ。銀行問題に詳しい椎名麻紗枝弁護士が言う。
 「不良債権を外したい金融機関は担保を処分した上で、無担保債権となった不良債権をRCCに一律IOOO円で売り払った。
 RCCは現在までに約6000件分、I12億円を回収しました。銀行から融資を受けていた中小企業は、いきなりRCCから返済を迫られ、払えないと連帯保証人が脅迫まがいの取り立てを受ける。給与の差し押さえは序の□で、自宅まで仮差し押さえされたケースもあります。そんな中小企業の倒産や連帯保証人の自己破産の上に、不良債権処理の終結宣言があるのですから、ひどい話です」
 天気予報風に言えば、東京は大手銀行が集まる大手町界隈だけが晴れで、中小企業が密集する下町は土砂降りである。

目を覆う地方経済と地銀の惨状


 都心でこの惨状だから地方はもっと悲惨だ。全国地銀協の瀬谷会長はこう言っている。
 「企業は海外に工場進出し、空洞化が進んでいる。地場産業は中国からの輸入品に押されている」
 「地方では事業所の減少が著しい。(地銀は)法人、個人向けとも努力はしているが、デフレが続いているなかで貸し出しを仲ぱすのは難しい」
 「われわれは地域と一体で、取引先を切れない。だから、場合によっては破綻懸念先であっても再生を基本に取り組んでいる」
 「郵便貯金は民間と競争条件を同じにすることが必要。民営化はそれとは違う方向に行きそうで、官業の肥大化ととらえている。がっかりしている」
 全くその通りだ。地場産業がガタガタで景気回復の見通しはなく、地銀は不良債権を抱えてアップアップ。金融庁が納得する不良債権比率は3〜4%前後だが、4%未満にまで落とした地銀は2割弱しかない。それどころか、10%以上の危ない地銀、第二地銀が11行もあるのだ。
 これでは、地方の再生などできるわけがない。経済評論家の笹子勝哉氏が言う。
 「しかも金融庁はこの不良債権を□実に合併や統合など地域金融機関の再編をもくろんでいます。これまでお目こぽしにあずかっていた銀行にもことごとくメスが入れられるでしょう。健全な銀行は問題銀行の受け皿となり、合併に次ぐ合併で最終的には1県I地銀にするつもりです。言うまでもなく第二地銀や信金、信組、農協などは壊滅です」
 実際、地銀再編は着々と進められている。ここ数年で「ほくほくFG」(北海道銀十北陸銀)をはじめ、「きらやかHD」 (殖産銀行十山形しあわせ銀=07年中頃)、「ひたちの銀行」(関東つくぱ銀十茨城銀=06年7月)、「紀陽FG」 (紀陽銀十和歌山銀=06年度中)、「山口銀十もみじHD」 (共同持ち株会社HH06年度中)など、合併例はゾロゾロある。

どこに景気回復の芽があるのか


 その結果、金融庁の言うように地方の金融不安が解消するかといえば、とんでもない。
 「信金や信組などは淘汰され、地域の利便性は失われます。多くの行員がリストラの憂き目に遭い、合併行には大手メガバンク並みの検査基準が要求される。これまで長い付き合いで融資していた地元企業も業務内容を厳しくチェックされるようになり、貸し渋りや貸し剥がしが始まります」(笹子勝哉氏=前出)
 ただでさえ地方は工場撤退などで人口が減っている。郊外の大型店舗に押されてシャッター通りと化す商店街は後を絶だない。そのうえ地元企業が銀行に見放されては、地方に景気回復の芽はない。

「貧富二極化」を放置していいのか


 銀行が企業に融資しないのは大手行も一緒。今年1月、日銀がまとめた大手7行の預貸金速報値を見ると、預金は昨年1月比で約3兆3700億円増(1・44%増)となっているのに、貸金は同期比で10兆7500億円減(5・45%減)。貸し渋りは高水準を維持している。
 しかも日銀自体が、こうした金融状況を変えられずお手上げ状態である。先月下旬、日銀は量的緩和政策の目安となる当座預金残高について「30兆円の下限を下回ることを容認する」と発表した。これは「何もできません宣言。金融引き締め策に転じれば金利は上昇、株価は下落、国債も暴落で日本経済はガタガタになるから、インフレ期待が出るまで放置するということだ。帝京大教授の降旗節雄氏(経済学)が言う。
 「いよいよ本格的な市場原理主義による二極化が始まるのです。地銀は淘汰され大手行に吸収される。そうなると地域密着型の金融機関はなくなり地方経済と中小零細はどんどん疲弊する。その一方で、大企業とメガバンクに急速に富が集中することになるのです」
 国民は一握りの富裕層と圧倒的な貧乏層へと二極に分解される。それがアメリカかぶれの小泉・竹中路線の帰結点だ。にもかかわらず、国民は、「改革に期待する」と小泉に50%以上の支持を与えている。
 いい加減にお人よしから目覚めないと、この国はガチヤガチヤになってしまう。