◆銀行の貸し手責任を問う会の活動はNPO(非営利組織)的
 
 「新市民」運動と朝日新聞が評価◆
 
(朝日新聞「Be」紙2007.02.24付「Report」欄)
 日本の将来を左右する課題だと考えるべきだろう

 朝日新聞「Be」紙は2005年10月から続けた連載「新市民伝」を掲載し、2007年2月24日付の最終回で終えました。この間、連載は70人の「新市民」を紹介しました。銀行の貸し手責任を問う会からは、同会事務局長の椎名麻紗枝弁護士が取材に応じ、朝日2006年7月1日付で、「押し付け融資の被害を救え」(タイトル)と紹介されました。
 同紙は連載総集編の総括を2月24日付Report特集で紹介しました。(写真を参照)


 同紙は「新市民」の定義を「行政や企業とは異なる立場で、自ら進んで公共的な活動を担う」存在ととらえ、運動の意義を担当記者は「そんな『新市民』の存在が、日本でますます重要になると感じています」と総括しています。
 椎名事務局長らの活動を「銀行がバブル期に持ちかけた過剰融資で多くの高齢者が借金地獄に陥った。銀行の貸し手責任を問う会の椎名麻紗枝事務局長(06年7月1日付)は弁護士としても『銀行被害者』を支援する」と紹介。同紙は、特集の結びで「『新市民』の特徴はその多様性にある。年齢、性別、地域、立場を越えて人々が集い、知恵を出し合うことによって、社会問題の解決をめざす活力が生まれてくる」「組織はNPO法人(特定非営利活動法人)がいまのところ多い。多様な「新市民」が生き生きと活動できる法人制度や税制をどう整えていくのか。日本の将来を左右する課題だと考えるべきだろう」と新市民運動の特長と意義を明らかにしています。
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 以下、連載「新市民伝」総集編の総括特集・全文を紹介します。
■朝日新聞「Be」2007.02.24付「Report」欄
 不登校対策から在宅介護、廃食油利用
「新市民」が社会を担う  多様性が活力を生む

 左下の連載「新市民伝」を今回で終えます。05年10月から、環境や教育、福祉、まちづくりなど、さまざまな社会の問題に先駆的に取り組む70人を紹介してきました。行政や企業とは異なる立場で、自ら進んで公共的な活動を担う。そんな「新市民」の存在が、日本でますます重要になると感じています。(編集委員・辻陽明)

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 昔の「市民運動」は行政に社会問題の解決を求めるだけで終わりがちだった。ところが、いまの「市民活動」は自分で問題の解決方法を考えて実践する。この担い手を「新市民」と呼んでみた。

 社会には大きく分けて三種類の組織がある。行政(政府や地方自治体)と営利企業と、どちらからも独立した民間の非営利団体だ。

 三つ目が「新市民」の組織といえる。NPO(非営利組織)やNGO(非政府組織)と呼ばれ、欧米では大きな社会的役割を果たしている。日本でも台頭しつつあることを示すのが連載の狙いだった。

 硬直的な行政と利益優先の企業だけでは、社会は行き詰まる。「新市民」は(1)新しい問題に取り組む先駆性(2)縦割りの分野をつなぐ総合化の能力(3)多様な政策を示す提言性(4)機動力という点で行政に勝る。企業に対しては(5)消費者の立場からチェックする。こんな機能で社会を変えつつある。連載を例に見ると――。

■先駆性

 先駆性の例として、不登校の子どもらのフリースクールがあげられる。
 草分けの東京シューレの奥地圭子理事長(05年11月12日付)は、長男の不登校を機に始めた「親の会」で「不登校は特別なことではない」と気づき、85年に開設した。
 当時の教育行政では「不登校は本人や親が原因」。不登校の子どもは自宅にいるしかなかった。その彼らに「安心していられる学校外の居場所」を提供し、学習の機会も保証した。いまは首都圏の4カ所に約200人が通う。
 今春は東京都葛飾区と協力し、廃校を利用した特区で、不登校の子どもを受け入れる中学校を開く。全国で不登校の小中学生は約12万人。「学校離れ」が続く中で行政は、フリースクールが示してきた教育の多様な選択肢を無視できなくなっている。
 先駆性は現場から生まれる。東京都立川市のケア・センターやわらぎの石川治江代表(05年10月15日付)は在宅介護のボランティアに限界を感じ、87年に有償の事業を始めた。増え続ける高齢者の需要にこたえるには、どのヘルパーも担当できるようにする必要がある。そこで利用者の介護メニューがすぐわかるソフトを開発。これが後に介護保険のモデルになった。
 多文化共生センターの田村太郎理事(06年1月7日付)らは95年の阪神大震災のとき、日本語が不自由な在住外国人に多言語で情報を伝えた。活動はその後、要望が強い医療や労働、教育など日常生活の支援に広がる。日本の行政が欠落している分野だ。

■総合化

 総合化の例としては、全国に広がる「菜の花プロジェクト」がわかりやすい。休耕田に菜の花を植え、採ったナタネの油を学校給食に使い、廃食油から燃料をつくって車を走らせる。滋賀県環境生活協同組合の藤井絢子理事長(06年4月1日付)が提唱した地域循環の仕組みだ。
 廃食油を回収してつくったせっけんを使う運動が壁にぶつかったとき思いついた。地元の町の関係者に協力を求め98年に実現。農林水産省などに働きかけて1府6省がかかわる国家的な事業になった。
 総合化には事業の設計図を描く構想力と実行力が欠かせない。6月の札幌に約200万人を集めるYOSAKOIソーラン祭り組織委員会の長谷川岳専務理事(05年12月3日付)は北大の学生時代の92年、市や警察をねばり強く説得し最初の祭りを開いた。
 設計図を描くための調査も必要だ。静岡県の浜松NPOネットワークセンターの山口祐子・前代表理事(06年3月11日付)らは、天竜川の支流の治水構想づくりを県から受託したとき住民参加の調査を徹底。生活や農業用の排水路7本が1カ所に集中して洪水になりやすい実態を明らかにし、浜松市や県が連絡を取りあう体制を求めた。地元の小学校を巻き込み、川から地域を知る授業につなげた。

■多様性が活力を生む


 多様な政策提言で目立つのは地球温暖化防止。気候ネットワークの平田仁子(きみこ)理事(06年2月11日付)は国際交渉や国内対策で及び腰の政府に本気で取り組むよう求める。
 日本地質汚染審査機構の楡井(にれい)久理事長(06年11月25日付)は、環境省や業界が主導する土壌汚染対策法の調査法を「汚染を見逃し、広げかねない」と批判。普及につとめてきた独自の「単元調査法」に転換すべきだと主張する。
 機動力の典型は国際支援だ。ジェン(JEN)の木山啓子事務局長(05年12月10日付)は、05年のパキスタン地震でいち早く現地に入り、被災者に仮設テントを届けた。「災害でも紛争でも困っている人がいればすぐに動く」
 企業へのチェックが必要な代表格は住宅。建築Gメンの会の中村幸安顧問(06年4月22日付)は欠陥住宅問題に取り組んだ経験から、消費者側に立つ優れた専門家を増やす必要を痛感。独自の資格「建築Gメン」を設け、工事が常に監視される状態をめざす。
 銀行がバブル期に持ちかけた過剰融資で多くの高齢者が借金地獄に陥った。銀行の貸し手責任を問う会の椎名麻紗枝事務局長(06年7月1日付)は弁護士としても「銀行被害者」を支援する。
 「新市民」の特徴はその多様性にある。年齢、性別、地域、立場を越えて人々が集い、知恵を出し合うことによって、社会問題の解決をめざす活力が生まれてくる。
 組織はNPO法人(特定非営利活動法人)がいまのところ多い。多様な「新市民」が生き生きと活動できる法人制度や税制をどう整えていくのか。日本の将来を左右する課題だと考えるべきだろう。    
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 NPOとNGO 民間の非営利団体という点は同じ。国際援助や環境保護団体はNGO(非政府組織)と呼ばれることが多い。NPO(非営利組織)は日本の行政文書の慣例だと、特定非営利活動法人(NPO法人)と任意団体を指す。欧米流の定義では「公益目的」の公益法人、さらに「共益目的」の生協なども含まれる。