(株)一富士債権回収の債権回収の実例をもとに考える
2018年1月10日
銀行の貸し手責任を問う会
事務局長 椎名 麻紗枝(弁護士)
- はじめに、金融サービサーと言えば聞こえはよいが、実態は、不良債権をビジネスにしている会社
である。つまり、金融機関から安値で不良債権を買い取って、債務者とりわけ、その連帯保証人から
強引に債権を回収することを業にしている。一般人から見れば、金融機関が回収を諦めた不良債権が
ビジネスになるとは考えにくいが、実は、不良債権ビジネスは非常にうまみのある商売なのである。
その端的な例をあげれば、不良債権回収の総本山とも言える整理回収機構は、無担保債権を表向きの
債権額にかかわらず、一律1000円で6000件買い取って、112億円を回収している。
元手600万円で、112億円ももうけられる商売は、日本のどこにもないであろう。当会は、金融
サービサーの取立の実態を知る立場から、これ以上の金融サービサー地獄を拡大しないために、
サービサー法の対象債権の拡大には反対である。
また、「債務者等の利益の保護」の明文化も、金融サービサーに対する社会の批判を回避するためで
あれば、ほとんど意味がない。本当に債務者等の利益の保護を考えるのであれば、金融サービサーの
回収について具体的な規制を設ける必要がある。
具体的な規制を考える一助として、以下に1例を紹介する。
当然、このような巨額な回収を図る裏には、債務者とりわけ、連帯保証人から過酷な取立をして
いるからである。
かつて、サラ金地獄、商工ローン地獄がいわれ、大きな社会問題になったが、金融サービサーも、
まさにそういう実態がある。全国サービサー協会も、社会からの厳しい批判を受けて、今回の法改正
案の1条の目的規定に、「債務者の利益保護」を明文化した。しかし、債務者保護のための具体的な
規制はきわめて不十分であり、今後、金融サービサーの取り扱い債権が、滞納税金、滞納保険料、
奨学金の回収など拡大されれば、金融サービサー地獄は広がっていくことが危惧される。
全国サービサー協会は、金融機関の不良債権が減少する中で、取り扱い債権の拡大化が、かねてから
の悲願であった。そのため、同協会は、与野党に「債権整理回収業に関する特別措置法(通称
金融サービサー法)」の改正に向けた要望書を提出してきた。そして、昨年には、改正法律案の立案
作業が終了し、近々に議員立法形式による国会への提案が予定されている。
- 事案の概要
(1)親和銀行のアストライ債権回収への債権売却
① 平成20年9月に、親和銀行は、A工業に対する債権(合計約1億円の手形貸付)を、アストラ
イ債権回収に売却し、A工業は、アストライ債権回収から、債権元金の一部3000万円の支払
いを求める訴訟を福岡地裁に提起され、平成21年7月、A工業が敗訴した。
② A工業は、アストライ債権回収との間で、自社物件を売却した金から800万円を、その後は
毎月2万円を支払うことで返済の合意をし、同社は、約定どおり、アストライ債権回収に返済
したが、アストライ債権回収は、800万円について元金の返済に充当したが、毎月の返済は、
遅延損害金に充当した。
(2)アストライ債権回収から、オウルウッドキャピタルへの債権売却
① 平成26年1月に、A工業の債権をオウルウッドキャピタルに債権を売却し、オウルウッド
キャピタルは、債権回収を一富士債権回収に委託した。
② 一富士債権回収は、前債権者アストライの債務名義を承継して、A工業の連帯保証人らに対し、
預金口座および、連帯保証人が有していた不動産の賃料に対して債権差押を行った。
その結果、一富士債権回収は、合計約400万円の回収を行った。
※なお、連帯保証人は、賃料債権を差し押さえられた結果、自宅のローン返済できなくなった
ために、親和銀行から、競売申立をされ、自宅を失う結果となった。
(3)一富士債権回収のA建設に対する債権回収
① 一富士債権回収は、A工業の連帯保証人から、合計約400万円の回収を行っているのに、
さらに、A建設に対しても、平成27年に法人格否認および商号継続使用の法理のもとに、
5000万円の支払いを求める本訴を、長崎地裁佐世保支部に提起した。
② A建設は、A工業のグループ企業ではあるが、昭和33年に設立し、地方自治体からの土木、
建設などの公共事業も受注し、地元では中堅の建設会社であり、A工業とはまったく別個の
独立した会社である。
③ しかし、同地裁は、一富士債権回収の主張を認め、同29年3月に、A建設は、敗訴した。
これに対し、A建設は、控訴したが、控訴審も、1回で終結し、判決は、敗訴になったため、
A建設は、最高裁に上告した。
④ 一富士債権回収は、A建設の公共事業の請負代金など約1億円について仮差押を行い、一富士
債権回収は、最高裁の判決を待って、本執行をしようとしている。
A建設は、本執行されれば、会社は、従業員の給与や下請業者への支払いもできなくなり、倒産に
至ることは明白のため、A建設は、幾度か、一富士債権回収には和解を申し入れたが、一富士債権
回収は、申し入れに応じようとしない。
A建設は、県保証協会に、3000万円の債務及び遅延損害金を負担するほか、下請け業者への
約5000万円余の手形支払い、ならびに同社の代表者の親族らからの借入約4000万円もある。
A建設の代表者の親族からは、一富士債権回収から、工事代金など全額をとられてしまうくらいなら、
その前に、自己破産をして、債権者に平等な配分をすべきだという意見も出されている。
3.一富士債権回収の債権回収の問題
(1)中小企業円滑化法(平成21、12、4から平成25、3末、同法廃止後も円滑化法の趣旨に従う
ようにとの金融庁の監督指針)無視の債権回収
(2)A工業の連帯保証人に対する身ぐるみはぐ回収
(3)一富士債権回収は、前債権者アストライの債務名義を承継して、A工業の連帯保証人から、合計
約400万円の回収を行っているのに、さらに、別企業であるA建設に対しても、法人格否認の
法理のもとに、A建設の公共事業の請負代金など合計約1億円に対する仮差押を行い、A建設に
対する債務名義を得て、これについて本執行をしようとしている。
(4)債務者はもちろん、従業員の雇用、地域の下請け業者への配慮も考えずに、我さきに一粒も残さずに
債権回収をはかろうとする一富士債権回収は、まさにハゲタカビジネスである。
ちなみに、一富士債権回収の初代社長(現会長)の四方氏は、元大阪府警の本部長であった人物
である。
4.債務者保護の実効性をはかるために金融サービサー法の改正すべき点
(1)「法人格否認」の主張の制限
(2)差押禁止財産
売掛代金
連帯保証人,物上保証人の個人の住宅・給与・退職金・生命保険
(3)債権の転売(再譲渡)禁止
(4)買い取り価格の開示義務と回収額の上限規制
以上